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無人島探訪記(十)

掲載年月日:1950/5/22(月) 昭和25年
メディア:南琉タイムス 2面 種別:記事

原文表記

無人島探訪記(十)
南琉タイムス 昭和二十五年五月二十二日

    高 良 鐵 夫
海岸の方にはあわただしいエンヂンの音 騷動しい漁師の大聲がきこえる 夜半には遂に大嵐となり宿營地も又混乱狀態に陥る ビロウ葺の小屋はぐらつき 雨は打ち込み 三坪の幕舎はひつたぐられそうになつて來る 幕舎に載せた石がおちる 荒れ狂う大波は雷鳴とともに慘じく響く 頼りになるものはこの石垣ばかりである これが崩れてしまえば宿營地は風波のために一掃されるかも知れない とんでもない無人島へ來たものだと思うと不安でならない 一枚の毛布に身をくるみばたばた搖れる幕舎の中で夜の明けるのをまつ 明けて六日早朝樓門から海岸をのぞくと昨夕水を補給して居た五隻の漁船はもう姿が見えない 前夜半の中にどこかへ逃避したものらしい 山のような大波は磯に碎けてものすごいしぶ氣を上げる 陸地に引き上げてあつた刳舟は完全轉覆されて腹を見せて居り 海岸に放置されていた鰹の頭や内臓がすつかり洗い流されて淸掃されている 昨夕まで元気よく飛び交わしていたリユウキユウツバメの一群はすつかり元氣を失い簡單に手で捕えられる

現代仮名遣い表記

無人島探訪記(十)
南琉タイムス 昭和二十五年五月二十二日

    高 良 鐵 夫
海岸の方にはあわただしいエンヂンの音、騷動しい漁師の大声がきこえる。夜半には遂に大嵐となり宿営地も又混乱状態に陥る。ビロウ葺の小屋はぐらつき、雨は打ち込み、三坪の幕舎はひったぐられそうになって来る。幕舎に載せた石がおちる。荒れ狂う大波は雷鳴とともに慘じく響く。 頼りになるものはこの石垣ばかりである。これが崩れてしまえば宿営地は風波のために一掃されるかも知れない。とんでもない無人島へ来たものだと思うと不安でならない。一枚の毛布に身をくるみ、ばたばた揺れる幕舎の中で夜の明けるのをまつ。明けて六日早朝、楼門から海岸をのぞくと、昨夕水を補給して居た五隻の漁船はもう姿が見えない。前夜半の中にどこかへ逃避したものらしい。山のような大波は磯に砕けてものすごいしぶ気を上げる。陸地に引き上げてあった刳舟は完全転覆されて腹を見せて居り、海岸に放置されていた鰹の頭や内臓がすっかり洗い流されて清掃されている。昨夕まで元気よく飛び交わしていたリュウキュウツバメの一群はすっかり元気を失い、簡単に手で捕えられる。