キーワード検索

無人島探訪記(四)

掲載年月日:1950/5/4(木) 昭和25年
メディア:南琉タイムス 1面 種別:記事

原文表記

無人島探訪紀(四)
南琉タイムス 昭和二十五年五月四日

    高 良 鐵 夫
漁船群を追つて移動分散集合常なく沖を走るこのような光景は沿岸又は沖合で毎日展開されて居り これ等漁船の中には大島 沖繩から近きは興那國 宮古からも來ている 尖閣列島は全く海の寶といえよう マスカツオ ハカツオ トビウオ イルカ フカ クジラ 海亀等に恵まれて居り斯る海の幸は海流の關係が主体であろうが 又魚釣島そのものの地形と森林植物が魚附の効を多分に持つているものと思われる
 小蛇の生捕
午后二時昨日取り逃した蛇を生捕りに行く予想通り樓息所の穴から出て日當ぼつこをしていて人間が接近しつゝあるのを知らないらしい 生捕るには丁度都合が良い 今度こそ取り逃してはならない きづかれなように匍うて行き 岩影に身をかくし そこで双眼鏡 銅乱 を肩から下して身輕になる 蛇の逃げ場を頭をめがけて岩影からさつと飛び込み 左足で穴をふさぎ両手を以て頭と尾を押さえ難なく生捕る一人苦笑しながら凱歌をあげて宿營地に歸る 長さ八十三糎 ユウダ科のナトワリツクスに属する一種である 夕暗迫る宿營地上空にはリユウキユウツバメの一群が施回遊飛しているのが目撃される
植物はすべて根こそぎにされて腐朽しており新にススキ類 ナンバンキセル ボタンニンジン イリオモテアザミ? クサスギカヅラ等が点在的に生えている
後で漁師より聞いて解つたがこの一帶は先年(一九四七年?)の地震によつて山がくずれたものらしい 大岩から小岩へ 小岩から大岩えと時々巾飛して渡らねばならない 時たま飛び損ねて岩と岩との間に落ち込んだり 戓は向う脛を打つたりして實に歩き難いところである 岩盤の間から淸い水が流れており やはり飲料水として佳良である 北方水平線上に小島が浮いて見える これは北緯二十五度五十五分 東經百二三度四十分 永久危險地區として指定された黄尾島である 双眼鏡で見ると海岸は概して斷崖絶壁をなし 居り 中央部は山丘になつている この黄尾島こそ農業上關係の深■ところであり 海洋鳥も又多いところであるが惜しいかな危險地區に指定されて調査が出來ない      (續)

現代仮名遣い表記

無人島探訪紀(四)
南琉タイムス 昭和二十五年五月四日

    高 良 鐵 夫
漁船群を追って移動分散集合常なく沖を走るこのような光景は、沿岸又は沖合で毎日展開されて居り、これ等漁船の中には大島、沖縄から、近きは与那国、宮古からも来ている。尖閣列島は全く海の宝といえよう。マス、カツオ、ハカツオ、トビウオ、イルカ、フカ、クジラ、海亀等に恵まれて居り、斯る海の幸は海流の関係が主体であろうが、又魚釣島そのものの地形と森林植物が魚附の効を多分に持っているものと思われる。
 小蛇の生捕
午後二時、昨日取り逃した蛇を生捕りに行く。予想通り生息所の穴から出て日当ぼっこをしていて、人間が接近しつゝあるのを知らないらしい。生捕るには丁度都合が良い。今度こそ取り逃してはならない。きづかれないように匍うて行き、岩影に身をかくし、そこで双眼鏡、銅乱を肩から下して身軽になる。蛇の逃げ場を頭をめがけて岩影からさっと飛び込み、左足で穴をふさぎ両手を以て頭と尾を押さえ難なく生捕る。一人苦笑しながら凱歌をあげて宿営地に帰る。長さ八十三糎、ユウダ科のナトワリックスに属する一種である。夕暗迫る宿営地、上空にはリュウキュウツバメの一群が施回遊飛しているのが目撃される。
植物はすべて根こそぎにされて腐朽しており、新にススキ類、ナンバンキセル、ボタンニンジン、イリオモテアザミ? クサスギカヅラ等が点在的に生えている。
後で漁師より聞いて解ったが、この一帯は先年(一九四七年?)の地震によって山がくずれたものらしい。大岩から小岩へ、小岩から大岩へと時々巾飛して渡らねばならない。時たま飛び損ねて岩と岩との間に落ち込んだり、戓は向う脛を打ったりして実に歩き難いところである。岩盤の間から清い水が流れており、やはり飲料水として佳良である。北方水平線上に小島が浮いて見える。これは北緯二十五度五十五分、東経百二三度四十分 永久危険地区として指定された黄尾島である。双眼鏡で見ると海岸は概して断崖絶壁をなし居り、中央部は山丘になっている。この黄尾島こそ農業上関係の深■ところであり、海洋鳥も又多いところであるが、惜しいかな危険地区に指定されて調査が出来ない。 
     (続)