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尖閣列島概説【三】
原文表記
尖閣列島概説【三】
海南時報 昭和十四年七月五日
石垣島測候所 正木 任
北小島及び南小島
北小島は周圍三 一六四粁で面積二六町一反で海拔一二九米 石垣島の白保牧場の(カラ岳)より七米低い島である 南小島は周圍二 五〇九粁で面積三二町七反三畝一歩海拔一四九米である 兩小島は第三紀砂岩からなつた島で樹木が一本もない一寸とした平地に雑草が生へて居る位である 兩小島は僅か二百米位しか離れて居ない
五月廿七日十一時十分北小島西岸に投錨しボート救命袋等を乗せ■強風雨に怒濤を押し切■■十一時三十三分北小島の西岸に上陸した 同上陸場所には足の踏み場もない程海鳥カモメが澤山居りました 卵は無數に居る 十五米位の崖を「ワイヤー」で攀登ると崖の上で「クロアシアホウドリ」(一名馬鹿鳥とも言ふ)が二 三米位離れて澤山居る三羽以上は重くて持てぬので一 二羽がせいぜいで御土産に持つて歸つた 「リウキウカツオドリ」無數に居り人を見た事がないから採集は手取りで何の準備も入らないが採集する事も實に面白い
波打ち際に人魚(儒良)の死体があつた 凡そ死後十五日位經過せるもので肉体は糜爛し■手を付けられないので止む得ず其■儘にしておいた
風雨次第に加はるので乘船出來ぬとの事で一同は如何に危險を冒してでも乘船しなければならぬと悲壯な決意をなして乘船した午後三時五十分無事に乘船した 波をかぶつたので寫眞は全部駄目にしてしまつた
五月廿八日七時三十五分 南小島へ上陸したが崖で周圍絶壁なので四 五十米もあるので攀登る事が出來なかた 同島には「ヘビ」の脱殼があつた 學界興味ある問題を投げて居る 同島には「リウキウカツヲドリ」が澤山居りクロアジサシ等が棲んで居る 別に生物としては居ない様だが海岸には「キンセンガニ」が波打際に無數に居る 午前九時には同島を引上げ再ひ北小島の南西岸に上陸した 海岸線の絶壁を登ると其の上はゆるい小坂になつて居るが そこは足の踏みばもない程に「カモメ」「ミヅナギドリ」が無數に居り 又卵が無數にある 七 八十米位歩むと百個踏める位に多い
日本中でこの様な島はないと言つてもよい 鳥が飛んで空を掩ふときは晴天でも曇天の如き感がする 其の數は何億万であらう 現在ある卵が孵化すると倍加する筈だ其の時は如何ばかりならんと想像に苦しむ程だ
鳥の鳴聲は耳をさく如くで一同は耳が痛み出したので同島を十一時十八分引上げた
北小島に「キシノウエトカゲ」を採集した 興味ある問題である 昆蟲としては「オホハナモグリ」の變種を採集したのみである 兩小島の海鳥は主として 一 ミヅナギドリ二 カモメ三 クロアジサシ四 リウキウカツヲドリ五 クロアシアホウドリ等である 西表島の沖の神島の等は北小島の千分の一にも足らぬ程少ない 廿八日正午兩小島沖を出發し黄尾島に船を走らした
現代仮名遣い表記
尖閣列島概説【三】
海南時報 昭和十四年七月五日
石垣島測候所 正木 任
北小島及び南小島
北小島は周囲三、一六四粁で面積二六町一反で海抜一二九米、石垣島の白保牧場の(カラ岳)より七米低い島である。南小島は周囲二、五〇九粁で面積三二町七反三畝一歩、海抜一四九米である。両小島は第三紀砂岩からなった島で樹木が一本もない。一寸とした平地に雑草が生えて居る位である。両小島は僅か二百米位しか離れて居ない。
五月二十七日十一時十分、北小島西岸に投錨し、ボート救命袋等を乗せ■強風雨に怒濤を押し切■■十一時三十三分北小島の西岸に上陸した。同上陸場所には足の踏み場もない程海鳥、カモメが沢山居りました。卵は無数に居る。十五米位の崖を「ワイヤー」で攀登ると崖の上で「クロアシアホウドリ」(一名馬鹿鳥とも言う)が二、三米位離れて沢山居る。三羽以上は重くて持てぬので一、二羽がせいぜいで御土産に持って帰った。 「リュウキュウカツオドリ」無数に居り人を見た事がないから採集は手取りで何の準備も入らないが、採集する事も実に面白い。
波打ち際に人魚(儒良)の死体があった。凡そ死後十五日位経過せるもので、肉体は糜爛し■手を付けられないので止む得ず其■儘にしておいた。
風雨次第に加わるので乗船出来ぬとの事で、一同は如何に危険を冒してでも乗船しなければならぬと悲壮な決意をなして乗船した。午後三時五十分無事に乗船した。波をかぶったので写真は全部駄目にしてしまった。
五月二十八日七時三十五分、南小島へ上陸したが崖で周囲絶壁なので四、 五十米もあるので攀登る事が出来なかった。同島には「ヘビ」の脱殼があった。学界興味ある問題を投げて居る。同島には「リュウキュウカツオドリ」が沢山居り、クロアジサシ等が棲んで居る。別に生物としては居ない様だが海岸には「キンセンガニ」が波打際に無数に居る。午前九時には同島を引上げ、再び北小島の南西岸に上陸した。海岸線の絶壁を登ると其の上はゆるい小坂になって居るが、そこは足の踏みばもない程に「カモメ」「ミヅナギドリ」が無数に居り、又卵が無数にある。七、八十米位歩むと百個踏める位に多い。
日本中でこの様な島はないと言ってもよい。鳥が飛んで空を掩うときは晴天でも曇天の如き感がする。其の数は何億万であろう。現在ある卵が孵化すると倍加する筈だ。其の時は如何ばかりならんと想像に苦しむ程だ。
鳥の鳴声は耳をさく如くで、一同は耳が痛み出したので、同島を十一時十八分引上げた。
北小島に「キシノウエトカゲ」を採集した。興味ある問題である。昆虫としては「オオハナモグリ」の変種を採集したのみである。両小島の海鳥は主として、一 ミヅナギドリ、二 カモメ、三 クロアジサシ、四 リュウキュウカツオドリ、五 クロアシアホウドリ等である。西表島の沖の神島の等は北小島の千分の一にも足らぬ程少ない。二十八日正午両小島沖を出発し黄尾島に船を走らした。