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◎第三回三浦丸船長の公判
原文表記
◎第三回三浦丸船長の公判
第三回三浦丸船長の公判は昨日午前九時五十分より開かる傍聽席は前回に劣らぬ滿員にて廷外■佇立ちする者も多く殊に婦人の傍聽人は前回より多數見受けられたり
▲被告の訊問 裁判長は先づ船上ブイの數につき一二の訊問■試み輪のブイが規定數より二個足りないと云ふが如何との問は對し(被)大阪より修繕の歸路迄もブイの數四個ありしが其後二個は何時失ひしにや判らず(判)救命円は如何なる器具にして如何なる場合に使用するか(被)船体危急の時附管を附けて海中を照す器具なり(判)三浦丸遭難の際に於て其の器具を使用して船体を明るくする方法はなかりしや(被)突嗟の事にて其の間はなかりき(判)遭難の時には船体中ランプは点じありしか(被)客室は点じてありたれど其他は暴風の爲消えたり(判)岩礁に乘上げる間に看板に打上げ■激浪の回數は如何(被)二回なり(判)被告は十一日の日は御飯は食ひしか(被)午丈食つて晩は食はざりし(被)晩食を欠ぎしは如何(被)艋客に供給する爲(判)ブイは何時頃備へしか(被)台灣総督府より拂下げとなりし時分より、茲に於て裁判長■被告の訊問を終り証人又吉眞幸の訊問に移る
▲証人又吉の訊問 証人又吉眞幸は當時三浦丸の水夫を勤め居りしものにして裁判長の問ひに對し、自分は■の表で錨の見張となし内田敢■と交代して舩上の中央まで來る■既に舩は堪だしき傾斜となし漸くにして船室に入りうれより再び出でんとする時には船は轉覆したのである其の時幸じて五寸經の一尋位の棒に泳ぎ付きしがうれと同時に仲村渠龜も自分と共に此の棒にすがりて三重城の北側の海岸に漂着せし次第なり上陸して初めて國吉山に逢ひ三浦丸の遭難を語■平素私情の關係より船長の安否を如何と■語せるに船長は既に山宅にありと聞き自分等も問人の宅に■けられて船長と會したる次第にして自分は上陸後直ぐに船長の安否を國吉山に聞きしにはあらず云■裁判長は右の証言に就き國吉山の申立を再度繰返し國吉が又吉等と會せし時は又吉等は既何處にてか■換へをなし居りし■にして船長を頖りと探し■たるを以て船長は自宅に居ると告げ間違せりとの國吉の証言を悉く否認して陳述したり
▲証人仲村渠の訊問 証人仲村渠龜は當時三浦丸の炊事を勤め居りしものにして前期又吉証人と同時に避難せしものなり裁判長は國吉山の申立を告げ証人仲村渠は又吉と共に船長を探し歩きしにあらずやとの問ひに對し之を全然否認し尙ほ上陸后船長の言を放ちしことなく從つて私情の關係を以て船長の安否を案ぜし事も一切なしと陣述す即ち又吉の証言と多少相違の廉あり裁判長は尙ほ問ひを進める証人は順次答へて着物は國吉の宅にて初めて着換へをせりと述べ尙ほ自分等は上陸后船中の人の安否如何を伺ふ心は浮ばざりしと答ふうれより更に又吉証人を喚問し警察に於ける當時の答辯と公判廷に於ける答辯と相違の所ありとて再度訊問を受け引き下がれり
▲辯論は來る七日 裁判長は前嶋辯護士に對し外に証人召喚等の必要はなきかと念を押す、前嶋氏は本件に就きては突然今朝依賴されしものにて今まで色々証人の御取調べもありたれば別段証人の必要を感ぜざるが今回の事件は實に世間の耳目を注ぎし■にてあれば愼重に書類の調査を遂げし上■■七日辯論開始の申請致したしを述べ裁判長は辯護士よりの申請を容れ次回公判は來る七日開始すべしと告げ閉廷す時に十時五十分なりき
現代仮名遣い表記
◎第三回三浦丸船長の公判
第三回三浦丸船長の公判は、昨日午前九時五十分より開かる。傍聴席は前回に劣らぬ満員にて、廷外■佇立ちする者も多く、殊に婦人の傍聴人は前回より多数見受けられたり。
▲被告の訊問 裁判長は先づ船上ブイの数につき、一二の訊問■試み、輪のブイが規定数より二個足りないと云うが如何との問は対し(被)大阪より修繕の帰路迄もブイの数四個ありしが、其後二個は何時失いしにや判らず(判)救命員は如何なる器具にして、如何なる場合に使用するか(被)船体危急の時附管を附けて海中を照す器具なり(判)三浦丸遭難の際に於て、其の器具を使用して船体を明るくする方法はなかりしや(被)突嗟の事にて其の間はなかりき(判)遭難の時には船体中ランプは点じありしか(被)客室は点じてありたれど其他は暴風の為消えたり(判)岩礁に乘上げる間に看板に打上げ■激浪の回数は如何(被)二回なり(判)被告は十一日の日は御飯は食いしか(被)午丈食って晩は食はざりし(被)晩食を欠ぎしは如何(被)艋客に供給する為(判)ブイは何時頃備えしか(被)台湾総督府より払下げとなりし時分より茲に於て、裁判長■被告の訊問を終り証人又吉真幸の訊問に移る。
▲証人又吉の訊問 証人又吉真幸は当時三浦丸の水夫を勤め居りしものにして裁判長の問いに対し、自分は■の表で錨の見張となし、内田敢■と交代して船上の中央まで来る■既に船は堪だしき傾斜となし、漸くにして船室に入り、うれより再び出でんとする時には、船は転覆したのである。其の時幸じて五寸経の一尋位の棒に泳ぎ付きしが、うれと同時に仲村渠亀も自分と共に此の棒にすがりて、三重城の北側の海岸に漂着せし次第なり。上陸して初めて国吉山に逢い、三浦丸の遭難を語■平素私情の関係より船長の安否を如何と■語せるに、船長は既に山宅にありと聞き、自分等も問人の宅に■けられて船長と会したる次第にして、自分は上陸後直ぐに船長の安否を国吉山に聞きしにはあらず。云■裁判長は右の証言に就き国吉山の申立を再度繰返し、国吉が又吉等と会せし時は、又吉等は既何処にてか■換へをなし居りし■にして、船長を頖りと探し■たるを以て、船長は自宅に居ると告げ、間違せりとの国吉の証言を悉く否認して陳述したり。
▲証人仲村渠の訊問 証人仲村渠亀は当時三浦丸の炊事を勤め居りしものにして、前期又吉証人と同時に避難せしものなり。裁判長は国吉山の申立を告げ、証人仲村渠は又吉と共に船長を探し歩きしにあらずやとの問いに対し、之を全然否認し尚お、上陸後船長の言を放ちしことなく従って、私情の関係を以て船長の安否を案ぜし事も一切なしと陣述す。即ち又吉の証言と多少相違の廉あり、裁判長は尚お問いを進める証人は順次答えて着物は国吉の宅にて初めて着換えをせりと述べ、尚お自分等は上陸後船中の人の安否如何を伺う心は浮ばざりしと答う。うれより更に又吉証人を喚問し警察に於ける当時の答弁と公判廷に於ける答弁と相違の所ありとて、再度訊問を受け引き下がれり。
▲弁論は来る七日 裁判長は前嶋弁護士に対し、外に証人召喚等の必要はなきかと念を押す。前嶋氏は本件に就きては突然今朝依頼されしものにて、今まで色々証人の■取調べもありたれば別段証人の必要を感ぜざるが、今回の事件は実に世間の耳目を注ぎし、■にてあれば慎重に書類の調査を遂げし、上■■七日弁論開始の申請致したしを述べ、裁判長は弁護士よりの申請を容れ、次回公判は来る七日開始すべしと告げて閉廷す時に十時五十分なりき。