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◎孝感天心を動かせし歟

掲載年月日:1910/10/16(日) 明治43年
メディア:琉球新報社 1面 種別:記事

原文表記

◎孝感天心を動かせし歟
 今回三浦丸の遭難は實に當地に於ける稀有の大慘事にして其災厄より免かれたる人々は孰れか九死に一生を■■■我が好運を喜ばさらん其の好運を有せる■に平素老母を考養して天心を動かし遂に溺死の難を免かれたるにはあらずやと■はるゝ逸話こそあれ首里の人にて天久■■いふ■り當年五十七歳になるが阿旦葉帽子を編みて日々の營をなし七十八になる老母を養ひて怠ることなく母は又た手内職に苧を紡■て生計を助け母子の共稼ぎにて麗■しき平和の家庭を作り他人の見る目も羨■■程なりと云ふ此たひ阿旦葉帽子の原料仕入の爲め國頭地方へ出向き原料仕入の序でに母の好める内職の土産にとて芭蕉の繊維若干を買求めて歸途に就き阿旦葉帽子の原料は三浦丸に托して運送し自分は陸路母の土産を背負ひて風雨を冒して無事に■■三浦丸の悲慘なる災難を聞きて覺へず身の毛もよだつと共に若しや自分も彼の艘に載りたらましかばと思ふにつけ今更の如く身の好運を喜へは母も亦た喜色満面言と添へ阿旦葉帽子の原料を喪ひたるは惜しがらねにはあらねとも生命にはかへがたし且つ土產の芭蕉繊維か御身と共に安全なるを■たるは平素尽せる孝行の御蔭なりとて手織の芭蕉布一反を賣りて祝ひをなしたるよし児童のお伽話の材料にもなりそうな世にも目出度き話にあらずや

現代仮名遣い表記

◎孝感天心を動かせし歟
 今回、三浦丸の遭難は実に当地に於ける稀有の大惨事にして、其災厄より免かれたる人々は孰れか九死に一生を■■■我が好運を喜ばさらん。其の好運を有せる■に、平素老母を考養して天心を動かし遂に溺死の難を免かれたるにはあらずやと■わるる逸話こそあれ。首里の人にて天久■■いう■り、当年五十七歳になるが阿旦葉帽子を編みて日々の営をなし、七十八になる老母を養いて怠ることなく母は又た手内職に苧を紡■て生計を助け、母子の共稼ぎにて麗■しき平和の家庭を作り、他人の見る目も羨■■程なりと云う。このたび阿旦葉帽子の原料仕入の為め国頭地方へ出向き、原料仕入の序でに母の好める内職の土産にとて芭蕉の繊維若干を買求めて帰途に就き、阿旦葉帽子の原料は三浦丸に託して運送し自分は陸路母の土産を背負いて風雨を冒して無事に■■。三浦丸の悲惨なる災難を聞きて覚えず身の毛もよだつと共に若しや自分も彼の船に載りたらましかばと思ふにつけ、今更の如く身の好運を喜べは母も亦た喜色満面言と添え、阿旦葉帽子の原料を喪いたるは惜しがらねにはあらねども生命にはかえがたし、且つ土産の芭蕉繊維が御身と共に安全なるを■たるは平素尽せる孝行の御陰なりとて、手織の芭蕉布一反を売りて祝いをなしたるよし。児童のお伽話の材料にもなりそうな世にも目出度き話にあらずや。