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◎物產陳列所を訪ふ
原文表記
◎物產陳列所を訪ふ
▲開所式 縣下生產物のあらゆる主要の標本■陳列し沖縄縣下生産力の標榜たるべき通堂なる沖縄物産陳列所は既既報の如く來月一日午後一時より愈々開所の式を擧行さるべし當日開所式には關區内及近郊地方の主なる官民百餘名を請じ擧式の後茶菓子の餐應あるべしと云ふ開所式擧行に就き所員の一人は日何分臨時縣會の際費用を六百圓に半減されたる結果今回陳列物品の募集にも餘程苦心せる者あり從て閉所式當日にも來賓諸氏の列席を講ふのみに止め各別なる催しとてもなき次第なり云々と語れり當日一般縦覧人は式後直に縦覧許可あるべき筈なれば縣下幾多の實業家敢育家其他諸方面の人出も甚だ多からんと想像さるべし記者は一昨日同所監事朝山氏に乞て陳列場の觀覽をなしたれば一巡せるまゝを左に掲出すべし
▲陳列場一巡 開所式當日の準備に陳列場は今しも人夫三四人腕まくり經高くからけてさも忙しそうに拭掃除をなし居る時なり其中を通り抜きて先づ工房場を一巡せり沖繩の三越白木屋とも目されて居る字西藤井呉服店は工產塲北隅の一方に同店の粹を抜きたる呉服物の陳列中にて糸縫米澤縫袴他其の他婦人用一式の奥浪太物類高きは百圓を越し二圓餘の最低價格の品物等いろいろ取交ぜ人氣に投ずる縞柄を撰りてあるは他の陳列呉服品中又一方の異彩を放てるを見受けらる其隣りが久米島袖の陳列品にして出品所は明かならず未だ表札張附など些細の用意までに至らざるものならん其他本縣產の織物類數十点あり各正礼附にてあれば縦覧者の評價に一層の參考となるべし工參物は右織物の外漆器、金属製品、陶器、帽子、泡盛、呉蓙等數種ありたれども何分にも目下前記の通り掃除半にして秩序的の縦覽をなす能はず陳列品の中でも未だ彼處此處の轉がり居るものもあり、農產物としては砂糖穀類、繊維類も多數あるが如くに聞きたれども未だ陳列の運ひに至らず水產物としては鰹節、罐詰、網地及漁具一切、尖閣列島產の剝製水鳥其他稀有の魚類の標本等ありて陳列品の總点數凡そ一千点程に上ぼり居ると云ふ
▲水產物所陳列所 朝山監事は橋本同所々長が見え何時の間にか引上げ時に予がブラリと佇み居る室は數ヶ所の窓密閉されたる薄暗き所なり此處が先刻の話に聞きし水產物の陳列舘なるべし而も金属製品陶器類も雜居せしめたる所なるが第一目に附きしは尖閣列島產の鳥類にして最も大なるが市中に捌く子豚大もあり尖閣列嶋は古賀氏の經營にかゝる一小孤島にして阿呆鳥繁生を以て世に知られたる所なり阿呆鳥の命名は同島の性質によると云ふ事なるが十數種の鳥類中何方が阿呆であるが甞て見し事なければ分らず人間の阿呆は耳が矢鱈に大きく首が極めて長くそして頭が病的に大きくなりたるものは其性質阿呆的の者多しと傳へらる左れば心當りの鳥奴を引捕らへて人間の阿保的型により推論し先づ耳の邊りより一々檢め見るも之れくて合点の行く様もなし終に全く不成功に終りて上げたるは何ほ引う阿保らしき至りなりけり
現代仮名遣い表記
◎物産陳列所を訪う
▲開所式 県下生産物のあらゆる主要の標本■陳列し、沖縄県下生産力の標榜たるべき通堂なる、沖縄物産陳列所は既報の如く、来月一日午後一時より、いよいよ開所の式を挙行さるべし。当日開所式には、関区内及近郊地方の、主なる官民百余名を請じ、挙式の後、茶菓子の餐応あるべしと云う。開所式挙行に就き、所員の一人は、日何分、臨時県会の際費用を六百円に半減されたる結果、今回陳列物品の募集にも余程苦心せる者あり従て、閉所式当日にも、来賓諸氏の列席を講ふのみに止め、各別なる催しとてもなき次第なり。云々と語れり、当日一般縦覧人は、式後直に、縦覧許可あるべき筈なれば、県下幾多の実業家敢育家其他諸方面の人出も、甚だ多からんと想像さるべし記者は、一昨日同所監事朝山氏に乞て、陳列場の観覧をなしたれば、一巡せるままを左に掲出すべし。
▲陳列場一巡 開所式当日の準備に陳列場は、今しも人夫三四人腕まくり、経高くからけてさも忙しそうに、拭掃除をなし居る時なり。その中を通り抜きて先づ工房場を一巡せり、沖縄の三越白木屋とも目されて居る字西藤井呉服店は、工産場北隅の一方に同店の粋を抜きたる呉服物の陳列中にて、糸縫米沢縫袴他、その他婦人用一式の奥浪太物類高きは、百円を越し、二円余の最低価格の品物等、いろいろ取交ぜ人気に投ずる縞柄を選りてあるは、他の陳列呉服品中又一方の異彩を放てるを見受けらる。その隣りが久米島袖の陳列品にして、出品所は明かならず、未だ表札張附など、些細の用意までに至らざるものならん。その他本県産の織物類数十点あり、各正礼附にてあれば、縦覧者の評価に一層の参考となるべし工産物は、右織物の外漆器、金属製品、陶器、帽子、泡盛、呉座等数種ありたれども、何分にも目下前記の通り。掃除半にして秩序的の縦覧をなす能はず、陳列品の中でも、未だ彼処此処の転がり居るものもあり。農産物としては砂糖穀類、繊維類も多数あるが如くに、聞きたれども、未だ陳列の運ひに至らず。水産物としては鰹節、缶詰、網地及漁具一切、尖閣列島産の剝製水鳥、其他稀有の魚類の標本等ありて、陳列品の総点数凡そ一千点程に上ぼり居ると云う。
▲水産物所陳列所 朝山監事は、橋本同所々長が見え、何時の間にか引上げ時に、予がブラリと佇み居る室は、数ヶ所の窓密閉されたる薄暗き所なり。ここが先刻の話に聞きし、水産物の陳列館なるべし。しかも、金属製品陶器類も雑居せしめたる所なるが、第一目に附きしは、尖閣列島産の鳥類にして、最も大なるが市中に捌く。子豚大もあり尖閣列嶋は、古賀氏の経営にかかる一小孤島にして、阿呆鳥繁生を以て、世に知られたる所なり。阿呆鳥の命名は、同島の性質によるという事なるが、十数種の鳥類中何方が、阿呆であるが、甞て見し事なければ分らず、人間の阿呆は耳がやたらに大きく、首が極めて長く、そして頭が病的に大きくなりたるものは、其性質阿呆的の者多しと傳へらる。左れば、心当りの鳥奴を引捕らへて、人間の阿保的型により推論し先づ、耳の辺りより一々検め見るも之れくて、合点の行く様もなし。終に全く不成功に終りて、上げたるは、何ほ引う阿保らしき至りなりけり。