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島巡り 天南漁夫

掲載年月日:1909/9/24(金) 明治42年
メディア:琉球新報社 1面 種別:記事

原文表記

島巡り 天南漁夫
八月十二日 午前五時舩浮港を發して與那國に向ふ海路靜穏午前十時同嶋に着す
此島には祖納、嶋中、鬚川の三部落あり祖納最も繁昌せり舩は祖納の沖に碇泊す海岸は暗礁多く瀬波高くして小舟の出入さへ危險なり沖は平穏なれども海岸に近づけば波高く瀨の割目より波間を窺ひ漕ぎ入れると云ふ有樣にて老練の船頭にあらざれば過ち多しと云ふ同乘の内田警察署長抔は帶劔を解き靴を脫して危險に備へたる程なり平穏の時さへ斯くの如し少しく荒れたる時の困難思ひやらる
此瀨戸を越ゆれば又穏かなり瀨戸内は淺けれども七八反の舩は自由に出入りす
濱には男女群をなして來者を迎ふ此島は美人を以て有名なりしが成程美女割合に多きが如し
雜と村を巡覽するに家々生活豊かなるものゝ如く家の構造抔石垣に劣ることなし物產は米を主として牛馬も相應に產すと云ふ
斯くて民家に休息し五時頃乘船八時に抜錨して尖閣列島に向ふ

現代仮名遣い表記

島巡り 天南漁夫
八月十二日 午前五時船浮港を発して、与那国に向う海路静穏、午前十時同島に着す。
この島には祖納、島中、髭川の三部落あり祖納最も繁昌せり。船は祖納の沖に碇泊す海岸は暗礁多く、瀬波高くして小舟の出入さへ危険なり、沖は平穏なれども海岸に近づけば波高く、瀬の割目より波間を窺ひ漕ぎ入れるという有様にて、老練の船頭にあらざれば過ち多しという。同乗の内田警察署長抔は、帯剣を解き靴を脱して危険に備へたる程なり、平穏の時さへ斯くの如し、少しく荒れたる時の困難思ひやらる。
この瀬戸を越ゆれば、又穏かなり瀬戸内は浅けれども、七八反の船は自由に出入りす。
浜には男女群をなして、来者を迎ふ。この島は美人を以て有名なりしが、なるほど美女割合に多きが如し
雑と村を巡覧するに、家々生活豊かなるものの如く、家の構造抔石垣に劣ることなし物産は、米を主として牛馬も相応に産すという。
斯くて民家に休息し五時頃乗船八時に抜錨して尖閣列島に向う。