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島巡り
原文表記
島巡り
天南漁夫
八月八日 中學校の敎授山口氏等の一行を訪ふ坐に八重山測候所長岩崎卓爾しあり氣象の話は釣と多少の關係あれは本嶋■氣象話を釣り出して興を催ふす
八重山測候所は中央氣象台の直轄に■糸數の原中に赤煉瓦を以て築きあげ中の設備もそれ相應にあり流石は低氣壓の名所丈あり此邊には不相應の建物なり
今日も好日和なれば午后六時より再び新川沖に出漁す塲所は昨夜より少し沖に乗出し左右両舷より大小二筋の綸を投ず始めの程は頻りに四五寸より七八寸のヤマトビあがり其數六尾に達す今日はヤマトビの觀音詣でかと笑へば船頭も打笑ふ昨夜の手並に恐れてか船頭も成功を期待せるものゝ如く甲斐々々しく餌抔の手傳ひをなす
暫くして糸卷の車ガラ々々と音す手應へ慥かに大タマンなり伸縮卷舒敵の力を痿し漸く手許五六尋の所まで引寄せたる時急轉强引して前方斜に去ること數尋糸も伸はされども引いても動かず糸先■見れば白沙の中に黑きもの見ゆことは仕舞つたり岩に卷つけられぬされど切れたりとも思■れざれば徐々と錨を揚けさせ近寄りてよく〱見れば藻の生へたる岩石にして岩角銳からぬ樣なり魚は藻の上に横臥し尾鰭を動かす毎に磷を起して夜目にも明かに認めらる舩を前後に操つて糸を岩より外し漸く引あげたるは昨日の獲物■劣らぬ大タマンなりけり此後尚ほヤマトビ一尾を獲て歸る
現代仮名遣い表記
島巡り
天南漁夫
八月八日 中学校の教授山口氏等の一行を訪う坐に、八重山測候所長岩崎卓爾しあり。気象の話は釣と多少の関係あれば、本嶋■気象話を釣り出して興を催うす。
八重山測候所は中央気象台の直轄に、■糸数の原中に赤煉瓦を以て築きあげ、中の設備もそれ相応にあり、流石は低気圧の名所丈あり。此辺には不相応の建物なり。
今日も好日和なれば午後六時より、再び新川沖に出漁す場所は昨夜より少し沖に乗出し、左右両舷より大小二筋の綸を投ず。始めの程は頻りに四五寸より七八寸のヤマトビあがり、其数六尾に達す。今日はヤマトビの観音詣でかと笑えば、船頭も打笑う。昨夜の手並に恐れてか、船頭も成功を期待せるものの如く、甲斐々々しく餌抔の手伝いをなす。
暫くして糸巻の車ガラ々々と音す、手応へ慥かに大タマンなり。伸縮巻舒敵の力を痿し漸く手許五六尋の所まで引寄せたる時、急転強引して前方斜に去ること数尋糸も伸ばされども、引いても動かず糸先■見れば白沙の中に黒きもの見ゆことは、仕舞ったり岩に巻つけられぬ、されど切れたりとも思■れざれば徐々と錨を揚けさせ近寄りて、よくよく見れば藻の生へたる岩石にして、岩角鋭からぬ様なり。魚は藻の上に横臥し尾ひれを動かす毎に、磷を起して夜目にも明かに認めらる。船を前後に操って糸を岩より外し、漸く引あげたるは昨日の獲物■劣らぬ大タマンなりけり、此後尚おヤマトビ一尾を獲て帰る。