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島巡り

掲載年月日:1909/9/13(月) 明治42年
メディア:琉球新報社 1面 種別:記事

原文表記

島巡り
天南漁夫
八月二日 午前五時三十分照嶋丸に乘りこみて出漁す過日より遙か沖に乘り出す幾度か鳥群は見へたれども鰹魚の群集に出會せず午后六時頃まで東西南北に乘り廻はせとも遂に一尾を獲す明朝未明より漁塲に出づるを期し此夜は永良部崎の北なる御神崎附近に假泊す
石垣出港の時は勿論假泊の豫定ならざりしを以て着ごみは單衣一枚にて夜中の海氣堪ふべからず近水と二人漁師の外套を借りて漸く冷氣を防ぐ
漁師等は吾々を慰むる爲め急に釣針と糸を造りて釣を試む此邊は魚類多しと見へ大ならざれども腮下七八寸のもの數尾を釣る
舩内の魚槽には多くの生餌あり之を保存するには絕へず船を動搖せしめざるべからず故に假泊の塲所態と波の高き所を撰びたる事なれば甲板上筵一枚の上夢穩かなる能はず動もすれば目を覺し現に星斗の動搖する見るも亦興なりき

現代仮名遣い表記

島巡り
天南漁夫
八月二日 午前五時三十分照嶋丸に乗りこみて出漁す、過日より遥か沖に乗り出す。幾度か鳥群は見えたれども鰹魚の群集に出会せず、午後六時頃まで東西南北に乗り廻はせとも遂に一尾を獲す。明朝未明より漁場に出づるを期し、此夜は永良部崎の北なる御神崎附近に仮泊す。
石垣出港の時は勿論仮泊の予定ならざりしを以て、着ごみは単衣一枚にて夜中の海気堪うべからず。近水と二人漁師の外套を借りて漸く冷気を防ぐ。
漁師等は吾々を慰むる為め、急に釣針と糸を造りて釣を試む。此辺は魚類多しと見え、大ならざれども腮下七八寸のもの数尾を釣る。
船内の魚槽には多くの生餌あり、之を保存するには絶えず船を動揺せしめざるべからず。故に仮泊の場所態と波の高き所を撰びたる事なれば、甲板上筵一枚の上夢穏かなる能はず動もすれば目を覚し現に星斗の動揺する、見るも亦興なりき。