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島巡り

掲載年月日:1909/9/9(木) 明治42年
メディア:琉球新報社 1面 種別:記事

原文表記

島巡り
天南漁夫
七月三十日 照嶋丸に乗り鰹魚漁を見る此日强風吹き空雨を含む
此船は二十馬力の石油發動機を据へたる最新式の鰹船にて其速力約六海里漁師二十余人機關部員二人乗こめり
午前六時石垣港を發■永良部先と鳩間嶋の間を往來して魚群を探す波ますます險惡船の動搖甚しけれども漁師の面々は之を事ともせずますます沖に乘出す
暫くして海鳥の低く群飛するを見る之れ鰹魚群集の徴標なり先頭の一號令に舵を轉して一直線に駛走す漸く三四十間も近づけは余等の目にも波間に潑溂たるし認めらる此時滿船活氣を以て充され野戰隊の敵に近づきたるの觀あり餌係り先づ生餌を掬ひあけて海に投ず漁師は竿をとり次第を守つて左舷に並ぶ一二尾舷邊に現はるゝを認むると同時に舳臚聲を合せて釣りあげ忽ちにして左舷の甲板は大鰹魚を以て充さる
斯くて風雨ます〱募りければ四十六尾を漁して石垣に歸航す折しも西北の風烈しく傳馬舩は連も漕出すこと能はず遂に糸滿の刳舟より上陸す此時幾度か轉覆せんとして辛ふじて濱に漕つけたり

現代仮名遣い表記

島巡り
天南漁夫
七月三十日 照嶋丸に乗り鰹魚漁を見る、此日強風吹き空雨を含む。
此船は二十馬力の石油発動機を据えたる最新式の鰹船にて其速力約六海里、漁師二十余人機関部員二人乗こめり。
午前六時石垣港を發■永良部先と鳩間嶋の間を
往来して魚群を探す。波ますます険悪船の動揺甚しけれども、漁師の面々は之を事ともせずますます沖に乗出す。
暫くして海鳥の低く群飛するを見る、之れ鰹魚群集の徴標なり。先頭の一号令に舵を転して一直線に駛走す、漸く三四十間も近づけば、余等の目にも波間に溌溂たるし認めらる。此時満船活気を以て充され、野戦隊の敵に近づきたるの観あり。餌係り先づ生餌を掬いあげて海に投ず、漁師は竿をとり次第を守って左舷に並ぶ。一二尾舷辺に現はるるを認むると同時に、舳臚声を合せて釣りあげ忽ちにして左舷の甲板は大鰹魚を以て充さる。
斯くて風雨ますます募りければ、四十六尾を漁して石垣に帰航す。折しも西北の風烈しく伝馬船は連も漕出すこと能はず、遂に糸満の刳舟より上陸す此時幾度か転覆せんとして、辛ふじて浜に漕つけたり。