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島巡り
原文表記
島巡り
天南漁夫
七月二十九日 天候惡くして出漁する能はず空しく海濱を徘徊して大体を觀測し域は傳馬船の水主に會ふて海の深淺底の模樣を尋ね域は漁夫を捕へて釣塲や魚道や潮時の適否抔を問ふ
那覇や名護や與那原の如きも苟も海を恐れぬものにして鳥賊引を解せぬは稀なり宮古に於ても此話は盛んに出てたり此島に來りては其熱度實に百度以上に達せりと云ふ鳥賊を引くは小舟に安坐して徐々と漕かせながら擬餌を海面より引くなり擬餌には中々良否の差多く淸濁蔭晴其餌を異にする等凝つては隨分面白き遊漁ならんか釣に至りては塲所を探し魚道を尋ね潮時を測り各種魚類の習を調へ針魚の如きチヌの如き激浪■犯すの狀大ありタマンの如き引くことを强くして且つ猛烈なるあり季節に依り群集の塲所に到れは糸を埀るゝも遲き程釣れるなとなり余を以て見れば彼此快樂の度合い趣味の多少實に同日の談にあらざるなり然るに漁夫滔々鳥賦薰に赴くは何ぞや只釣の難を避けて鳥賊引きの易に就くもの歟唯り八重山の嶺岸氏は鳥賦薰より釣薰に入り隨分遠く出かけて手荒き釣を試むることありと云ふ余は氏の如き同行者のます〱多からんことを祈ること切なり
現代仮名遣い表記
島巡り
天南漁夫
七月二十九日 天候悪くして出漁する能はず、空しく海浜を徘徊して大体を観測し域は、伝馬船の水主に会うて、海の深浅底の模様を尋ね域は、漁夫を捕えて釣場や魚道や潮時の適否抔を問う。
那覇や名護や与那原の如きも苟も海を恐れぬものにして、鳥賊引を解せぬは稀なり。宮古に於ても此話は盛んに出てたり、此島に来りては其熱度実に百度以上に達せりと云う。鳥賊を引くは小舟に安坐して、徐々と漕がせながら擬餌を海面より引くなり。擬餌には中々良否の差多く清濁蔭晴其餌を異にする等、凝っては随分面白き遊漁ならんか。釣に至りては場所を探し魚道を尋ね、潮時を測り、各種魚類の習を調へ針魚の如き、チヌの如き、激浪■犯すの状大ありタマンの如き引くことを強くして、且つ猛烈なるあり。季節に依り群集の場所に到れば、糸を垂るるも遅き程釣れるなとなり。余を以て見れば彼此快楽の度合い、趣味の多少実に同日の談にあらざるなり。然るに漁夫滔々鳥賊薫に赴くは、何ぞや只釣の難を避けて鳥賊引きの易に就くもの。歟唯り八重山の嶺岸氏は鳥賊薫より釣薫に入り、随分遠く出かけて手荒き釣を試むることありと云う。余は氏の如き同行者の、ますます多からんことを祈ること切なり。