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島巡り
原文表記
島巡り
天南漁夫
七月二十七日 此日は球陽丸入津の日なり別に片付けるものとてもなければ暇乞を濟したる後は手と足丈けは隙なれども心は何となくせわし
朝の間にちやんと手荷物を仕舞ひ十二時頃になれば今か〱と池間沖のみ詠むれども一沫の煙さへ見へず電信さへあれば何時出た何時に來るときちんと豫定が出來れども那覇を出たのか出ないのかそれさへわからず遊歷の余か身にさへ斯く不便を感する程なれば朝夕用務に追はるゝ人々の身にとりてはさぞや不利益の事多からん
斯くて一時も過ぎ二時になりても見へざれば今日は來らざるものと觀念し大城君と湯浴に赴むきその歸り途にて漸く煤烟を認む狂喜して宿に歸れば氣早の人々は早見送りの爲め來集せらる出船には未だ間もあればとてこれにて告別し用もなければ四時頃乘船して七時に漲水港を拔錨す
畜產に富み農產に富み阿旦葉に富み日本上流の士女に愛好せらるゝ上布の特產地たる宮古嶋よ尚ほ海に發展する十分 餘地ある宮古嶋よ別れに臨み汝が有爲なる宮古人士の手に依りて近き將來に百万圓の輸出物產を產出するの資質あるを斷言するものなり……宮古郡万歳
現代仮名遣い表記
島巡り
天南漁夫
七月二十七日 此日は球陽丸入津の日なり。別に片付けるものとてもなければ、暇乞を済したる後は手と足丈けは隙なれども、心は何となくせわし。
朝の間にちゃんと手荷物を仕舞い、十二時頃になれば今か今かと池間沖のみ詠むれども、一沫の煙さへ見えず、電信さえあれば何時出た何時に来るときちんと予定が出来れども。那覇を出たのか出ないのかそれさえわからず、遊歴の余か身にさへ斯く不便を感ずる程なれば、朝夕用務に追はるる人々の身にとりてはさぞや、不利益の事多からん。
斯くて一時も過ぎ二時になりても見えざれば、今日は来らざるものと観念し、大城君と湯浴に赴むきその帰り途にて、漸く煤煙を認む。狂喜して宿に帰れば、気早の人々は早見送りの為め来集せらる。出船には未だ間もあればとて、これにて告別し用もなければ四時頃乗船して、七時に漲水港を抜錨す。
畜産に富み、農産に富み、阿旦葉に富み、日本上流の士女に愛好せらるる上布の特産地たる宮古嶋よ。尚お、海に発展する十分 余地ある宮古嶋よ、別れに臨み汝が有為なる宮古人士の手に依りて、近き将来に百万円の輸出物産を産出するの、資質あるを断言するものなり……宮古郡万歳。