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◎海洋丸の救助と古賀氏
原文表記
◎海洋丸の救助と古賀氏
去る十三日古賀汽舩の辰島丸が慶良間島近海に於て大東島の經營者たる玉置氏の持船海洋丸の暗礁に乗り上げたるを救助し那覇港に引き歸りたることは當時の本紙に取敢へず報道しおきたるが右海洋丸は石炭積收の任務を帶びて西表島に航行中天候の爲に妨けられ慶良間島に避難し居たるが少しく天候恢復したる時は既に數日を經過したることとて大東島に航行を急ぐべき必要あり西表島に行くを見合はせ那覇への航行中潮流の爲めに流され折柄天候驗惡となりたるが故に船の操縦を失い暗礁に乗り上げたる次第なりと云ふ、此の時通り合はせたる辰島丸は自舩の乗舩まで下ろし之れが救助の爲め引き下ろし方に尽力したるか辰島丸附属の大なるロップが一度は中途より切断せられたる爲め更らに他のロップと取換へ數時間を費やして漸やく目的を達し那覇に引き來りたる次第なり、然るに其の日の天候は嶮惡にして事業の困難を感したるも若し少時を猶豫せば更に嶮惡となるべき徴候の見へければもて斯くは■度■引き下ろしを强行する■■びたるなとが果して其の日の午後より翌日に掛けて該島近海は著しく嶮惡を呈し海洋丸の舩行にも増したる激浪逆巻きたりし其の後該島より歸來の糸滿人等は語り居たりぬ右に就き海洋丸の舩長は若し當日辰島丸の救助を得ざりしならば此の激濤に揉まれ自由を失ひたる仝船は脆くも破損を見るの外あらざりしならん云々とて大に辰島丸の救助を感謝せりとなり、因に記す辰島丸が右船を引き下ろし其の他引船をして那覇に來りたるに就ては古賀汽船會社は相應の損失を見たる筈なればとて海洋丸の關係者より倍償せんと申込みたるも古賀氏は玉置氏とは年來の懇意にてもあり傍々無人島經營者として同憂同思の仝業者間の出来事にてはあり一切其の義に及ばずとて堅く之を謝絶して只仝船の大事に至らずして已みたるを祝し居れりと也
現代仮名遣い表記
◎海洋丸の救助と古賀氏
去る十三日古賀汽船の辰島丸が、慶良間島近海に於て、大東島の経営者たる玉置氏の持船海洋丸の暗礁に乗り上げたるを救助し、那覇港に引き帰りたることは、当時の本紙に、取敢へず報道しおきたるが右海洋丸は、石炭積収の任務を帯びて西表島に航行中天候の為に妨けられ、慶良間島に避難し居たるが、少しく天候恢復したる時は、既に数日を経過したることとて、大東島に航行を急ぐべき必要あり。西表島に行くを見合はせ、那覇への航行中潮流の為めに流され、折柄天候験悪となりたるが故に、船の操縦を失い暗礁に乗り上げる次第なりと云う。此の時通り合はせたる辰島丸は自船 の乗船まで下ろし、之れが救助の為め、引き下ろし方に尽力したるか、辰島丸附属の大なるロップが一度は中途より切断せられたる為め、更らに他のロップと取換へ数時間を費やして、漸やく目的を達し那覇に引き来りたる次第なり。然るに其の日の天候は嶮悪にして事業の困難を感したるも、若し少時を猶予せば、更に険悪となるべき徴候見へければもて斯くは、■度■引き下ろしを強行する■■びたるなとが、果して其の日の午後より翌日に掛けて該島近海は著しく、嶮悪を呈し海洋丸の船行にも増したる、激浪逆巻きたりし其の後該島より、帰来の糸満人等は語り居たりぬ右に就き。海洋丸の船長は若し、当日辰島丸の救助を得ざりしならば、此の激濤に揉まれ自由を失ひたる仝船は脆くも、破損を見るの外あらざりしならん云々とて、大に辰島丸の救助を感謝せりとなり。因に記す辰島丸が右船を引き下ろし、其の他引船をして那覇に来りたるに就ては、古賀汽船会社は相応の損失を見たる筈なればとて、海洋丸の関係者より倍償せんと申込みたるも、古賀氏は玉置氏とは年来の懇意にてもあり。傍々無人島経営者として同憂同思の仝業者間の出来事にてはあり、一切其の義に及ばずとて、堅く之を謝絶して、只同船の大事に至らずして已みたるを祝し居れりと也。