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◎机上短信 編輯子

掲載年月日:1907/8/10(土) 明治40年
メディア:琉球新報社 2面 種別:記事

原文表記

◎机上短信  編輯子
◎奈良原知事上京の土產は築港限短縮と山林整理の事業となりと云ふこと知事は言明致され居候然れども尙ほ一個の未成品の土產は造かに可有之筈にて候水產奬勵若くは珊瑚や眞珠の採取養殖の奬勵は則はち之なり
◎吾人は之を土產の未成品と云ふ只今直ぐと之れを縣民の利益として頂戴致す譯には參らざるべく候はんも愈々縣廳の一事業として奬勵せらるるの曉き其の結果は明なるべく候就中縣下に於ける眞珠貝の養殖若くは此のものの採取事業は奈良原男爵生命に掛けても奬勵せされは相成申すまじき塲合と存候第一は東京博覧會に於ける聖上陛下の御聲掛りと云ふに頃縣下の殖產の爲此ものを御心に止めさせ給へるとの一事を承はりたる今日に於ては男爵たるもの一日■安閑として居らるる譯のものにあらざるべく候
◎聞く所によれば男爵は本年の始め珊瑚珠採取談に關する本紙の記事に同意を表し今回の出京序を以て農商務當局に依賴して充分の研究を遂げ鹿兒島縣知事よりは此の採取網の寄贈を受けて帰れりと云ふこと他縣下の珊瑚珠に就ては古賀商店の主人も目下研究中とも承はり居候
◎何れにしても眞珠は聖上の御言葉に對し參らする忠義の關係上より等閑ならぬ縣下の一事業たるべく珊瑚の採取は水產事業の奬勵として試採を行ふ甚た可なるべく候吾人は此の外夜光貝の保護に對してもの充分の力を與たへんことを希望するもの也此のもの縣下の特產として工業用としては殊に珍重のもの他世界的工業用品として螺鈿細工が如何に好評あるかは縣下の產業家宜しく注意すべき所なるべし
◎海產物の開拓は縣下の利益なり彈丸黑子の琉球の天地を支那海、南洋諸方に迄も延長するものは一水產業の奬勵に係はる義と在候縣下の民人憤發次第によりては水產王となる又た難きことにあらざるべく候要は只だ何事も苟息にして發憤たらざるにあり候縣當局に■ま一氣張々を希望するのは民人をして私により憤起せしむるにありを在候
◎山林の經營其の緖に着くと仝時に水產業の奬勵に任す田地には甘蔗の作附け年々增加し行きつつあり候泡盛の原料品に戻稅を施行し本縣を南淸地方とに直通航路を開始するに於ては面目一新方さに此の時にありと云ふべく在候
◎一昨夜風月桜上知事歡迎會席上に於ける前田英次郎君の挨拶振りは縣下に於て近來の上品と見受け候言語明晰理知共に兼ねたる快弁と聴聞仕候
◎尖閣列島中の新消息、島王古賀氏によりて僅かに承知することを得申候同士が國家事業兼自己の利益事業として同島に於ける盡力はかつて人の知らざりし無人島に向つて港湾の開鑿に從事し、日々用ふる所のダイナモ拾個、若くは拾數個に及ぶとのこと也數年來同島開拓上の盡力は、無人島をして既に住家あらしめ港灣の設計あるに至らしむ等、常人にして及び易からざる義と存候
◎宮古島司の商談によれば同島には東京遊學生の七人を出し内一人は帝國大學の法科に在り二人は早稻田の學校に在りと云ふこと也文化の及ふ所は此の島にして此の光明を見る聖代の恩澤と謂つべく候

現代仮名遣い表記

◎机上短信  編輯子
◎奈良原知事上京の土産は、築港年限短縮と山林整理の事業となりと云うこと。知事は言明致され居候然れども、尚ほ一個の未成品の土産はたしかに可有之筈にて候、水産奨励若くは珊瑚や真珠の採取養殖の奨励は則ち之れなり。
◎吾人は之を土産の未成品と云う。只今直ぐと、之れを県民の利益として頂戴致す訳には参らざるべく候。はんも愈々県庁の一事業として奨励せらるるの曉き、其の結果は明なるべく候。就中縣下に於ける真珠貝の養殖、若くは此のものの採取事業は、奈良原男爵生命に掛けても奨励せざれは相成申すまじき場合と存候。第一は東京博覧会に於ける聖上陸下の御声掛りと云い、日頃県下の殖産の為、此ものを御心に止めさせ給へるとの一事を承はりたる今日に於ては、男爵たるもの一日■安閑として居らるる訳のものにあらざるべく候。
◎聞く所によれば、男爵は本年の始め珊瑚珠採取談に関する本紙の記事に同意を表し、今回の出京序を以て農商務当局に依頼して充分の研究を遂げ、鹿児島県知事よりは此の採取網の寄贈を受けて帰れりと云うこと也。県下の珊瑚珠に就ては、古賀商店の主人も目下研究中とも承はり居候。
◎何れにしても真珠は、聖上の御言葉に対し参らす忠義の関係上より等閑ならぬ県下の一事業たるべく、珊瑚の採取は水産事業の奨励として試採を行う甚た可なるべく候。吾人は此の外、夜光貝の保護に対しても充分の力を与たえんことを希望するもの也。此のもの県下の特産として、工業用としては殊に珍重のもの他。世界的工業用品として螺鈿細工が如何に好評あるかは、県下の産業家宜しく注意すべき所なるべし。
◎海産物の開拓は県下の利益なり。弾丸黒子の琉球の天地を支那海、南洋諸方に迄も延長するものは、一に水産業の奨励に係わる義と存候県下の民人憤発次第によりては水産王となる、又た難きことにあらざるべく候。要は只だ何事も苟息にして発憤足らざるにあり候、県当局に■ま一気張々を希望するのは、民人をして利により憤起せしむるにありと存候。
◎山林の経営、其の緒に着くと同時に水産業の奨励に任す、田地には甘蔗の作附け年々増加して行きつつあり候。泡盛の原料品に戻税を施行し、本県と南清地方とに直通航路を開始するに於ては、面目一新方さに此の時にありと云うべく存候。
◎一昨夜、風月楼上知事歓迎会席上に於ける前田英次郎君の挨拶振りは、県下に於て近来の上品と見受け候。言語明晰、理智共に兼ねたる快弁と聴聞仕候。
◎尖閣列島中の新消息、島王古賀氏によりて僅かに承知することを得申候。同氏が国家事業兼自己の利益事業として同島に於ける尽力は、かつて人の知らざりし無人島に向って港湾の開鑿に従事し、日々用いる所のダイナモ十個若くは十数個に及ぶとのこと也。数年来、同島開拓上の尽力は、無人島をして既に住家あらしめ港湾の設計あるに至らしむ尋常人にして、及び易からざる義と存候。
◎宮古島司の談話によれば、同島には東京遊学生の七人を出し、内一人は帝国大学の法科に在り、二人は早稲田の学校に在りと云うこと也。文化の及ぶ所は此の島にして、此の光明を見る聖代の恩沢と言うべく候。