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◎八重山群島(十三)

掲載年月日:1905/8/27(日) 明治38年
メディア:琉球新報社 2面 種別:記事

原文表記

◎八重山群島 (十三)
 林業
▲八重山群島の山林に富めるは實に縣下第一にして林業の將來最も有望なることは亦た多數識者の明認する所なり而して其深山幽谷に至らんか古來會て斧鉞を加えざる所の巨樹老木今尙ほ欝蒼として天を■ひ森々として枝を交へ宛然たる上古世界の山林にして未だ以て營林の■一も施されず利用其當を得ざるは常に慨して惜かざる所なり
▲抑々本郡の山林制度は舊慣制を襲用し地種目は土地整理法に依り自然官有山林の名稱を附せられ林産物は村の構山と稱せる區域内より御用木の外島民に在りては其主要の樹木は官廳の許可を得ば無償にて伐採し得る慣例にして他地方及び他府縣より來れる者に在りては凡て官廳の許可を得尙ほこれに相當の伐木料を納めて伐採するを得るの規定なり而して近く十年前より續々事業家の來縣するありて斯業に從事し林産物を種々利用するものあるに至れり即ち去る明治二十五年杉村安次郎なるもの初めて石垣島に於て楊梅皮採取許可を得て越幾斯製造を企て同廿七年鮫島常太郎亦た西表島に於て同業を興し同島一圓の楊梅皮及びヒ子木皮の採取に從事せしも何れも四五年經續の後故あつて事業中止の巳むなきに至れり爾來下駄木又は松村等の伐採許可を得て大阪臺灣等に其輸出を圖りしものありしも是亦其事業家に於て熱誠の乏しかりし爲めか乃至は資金の足らざりし故か何れも中途にして廢業することゝなれり
▲而して現今最も有利多望の事業として當業者に於ても熱心以て益々事業の進捗を圖りつゝあるものは艦木、枕木、赤木等の伐採を始めとし木炭の製造及び紅■、鳥黐の買收等是れなり是等は何れも大坂若くは臺灣に向て其販路を開き續々輸送しつゝあり尙ほ亦た近き將來に於て川平山の松木■伐採せんと出願中のものあり或はヒネ木皮採取組合事業を興さんと計画中のものありて二者共に前途多望の目途を有す
▲右は本群島に於て卽■及ひ現在に於ける林業の慨况なりとす而してまた將來に於ても其画策すべき點取て尠しとせず即ち山中の冗木を伐除して之に代ゆるに經濟的必要の樹木を以てし或は地理の關係氣候の適否等を稽較して本群島未だ産せざる所の新植物の繁殖を謀り以て百年の大計を建つるは實に本群島に於ける山林經營上必要缺くべからざることに属す然るに本群島山林の如きは凡て天然林にして松林を除くの外殆んど人造林なるものなく古來絕えて植林の道を講じたるものなきが如し
▲現今島民に在りては家作用材の如き唯だ目前に必要あるものゝ外は其栽培繁殖を望むものなく槪して保護上の注意薄く從て繁殖を圖るの念慮も亦た少きが如し島廳に於ては繁殖の道を講じ曩に石垣島川平村方面に於て模範的樟樹の栽培を試みしに其生育佳良にして頗る好况を呈するに至れり尙ほ亦た今春廣く全島に其栽培繁殖を圖り益々斯業の發達を期せり(未完)

現代仮名遣い表記

◎八重山群島 (十三)
 林業
▲八重山群島の山林に富めるは実に県下第一にして、林業の将来最も有望なることはまた多数識者の明認する所なり。そしてその深山幽谷に至らんか古来会て斧鉞を加えざる所の巨樹老木、今尚ほ欝蒼として天を■ひ森々として枝を交へ宛然たる上、古世界の山林にして未だ以て営林の術一も施されず利用其当を得ざるは常に慨して惜かざる所なり。
▲抑々本郡の山林制度は旧慣制を襲用し、地種目は土地整理法に依り自然官有山林の名称を附せられ、林産物は村の構山と称せる区域内より御用木の外島民に在りては、その主要の樹木は官庁の許可を得ば無償にて伐採し得る慣例にして、他地方及び他府県より来れる者に在りては、凡て官庁の許可を得、尚お、これに相当の伐木料を納めて伐採するを得るの規定なり。そして近く十年前より続々事業家の来県するありて、斯業に従事し林産物を種々利用するものあるに至れり。即ち去る明治二十五年杉村安次郎なるもの、初めて石垣島に於て楊梅皮採取許可を得て、越幾斯製造を企て同二十七年鮫島常太郎また西表島に於て、同業を興し同島一円の楊梅皮及びヒ子木皮の採取に従事せしもいずれも四五年経続の後故あつて事業中止の巳むなきに至れり。爾来下駄木又は松村等の伐採許可を得て大阪台湾等にその輸出を図りしものありしも、これまたその事業家に於て熱誠の乏しかりし為めか乃至は資金の足らざりし故か、いずれも中途にして廃業することとなれり。
▲そして現今最も有利多望の事業として当業者に於ても熱心以て益々事業の進捗を図りつつあるものは艦木、枕木、赤木等の伐採を始めとし、木炭の製造及び紅■、鳥黐の買収等是れなり。これらは、いずれも大坂若くは台湾に向てその販路を開き続々輸送しつつあり。尚おまた近き将来に於て、川平山の松木■伐採せんと出願中のものあり、或はヒネ木皮採取組合事業を興さんと計画中のものありて、二者共に前途多望の目途を有す。
▲右は本群島に於て既■及び現在に於ける林業の慨况なりとす。そしてまた将来に於ても、その画策すべき点取て尠しとせず。即ち山中の冗木を伐除してこれに代ゆるに経済的必要の樹木を以てし或は地理の関係気候の適否等を稽較して、本群島未だ産せざる所の新植物の繁殖を謀り以て、百年の大計を建つるは実に本群島に於ける山林経営上必要欠くべからざることに属す。しかるに本群島山林の如きは凡て天然林にして松林を除くの外、殆んど人造林なるものなく古来絶えて植林の道を講じたるものなきが如し。
▲現今島民に在りては家作用材の如き、唯だ目前に必要あるものの外はその栽培繁殖を望むものなく、概して保護上の注意薄く従て繁殖を図るの念慮もまた少きが如し。島庁に於ては繁殖の道を講じ曩に石垣島川平村方面に於て模範的樟樹の栽培を試みしに其生育佳良にして頗る好况を呈するに至れり尚おまた今春広く全島にその栽培繁殖を図り益々斯業の発達を期せり(未完)