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◎八重山群島(十)
原文表記
◎八重山群島 (十)
水產(續)
▲重要海產物
四、飛魚に七種あり左の如し
△マルートビイヨ 形大ならず重さ凡そ半斤位にして体稍々し故にマル-の稱あり其數多く孕卵期は三月より四月頃迄とし漁期亦三四月頃なり產地は八重山列島の内波照間島近海に最も多し
△ナガトビイヨ マル-に比すれば体稍々長大なり故に之にナガートビイヨの稱を附せり孕卵期は十二月頃にして漁期は十二月より翌年正月頃迄とす此種は八重山島近海には產出高少なしと
△ヒラガマチヤ- 此種は頭部扁平なるを以て俗にヒラガマチヤ-と稱すナガートビイヨに比すれば体稍々少にして孕卵期は二月より三月頃迄漁期も亦二三月頃なり產出又夥しく波照間島近海に最も多し
△アカバネ- ヒラガマチヤ-に比すれば体稍々大なり其數多くして孕卵期はヒラガマチヤ-と仝じく二月よか三月迄にして漁期も亦二三月迄なり此種も波照間島近海に多し本名は其鰭の赤色なるを以て斯く名付けしものなり
△ヲートビイヨ 全体微青色を帯びて光澤あり体ヒラガマチヤ-よりは小なれど其數多く孕卵期は三月より四月迄の間にして漁期も亦三四月頃なり
△ワタブタ 上記五■に比すれば体小なれど其產出の夥しきこと飛魚中冠たるものにして八重山列島中至る處に見ざるなし孕卵期は五月六月の間にして漁期も亦五月より六月頃迄とす此魚腹■膨大せるを以てワタブトの俗稱を附せしと云ふ
△サガマトビイヨ ワタブタに比すれば更に小にして凡そ廿疋位を併さゞれは一斤にも達せず飛魚中最小なるものに属す其數多く漁期は七八月頃とす孕卵期は判明せざれども如くの數種を總合して推測すれば孕卵期も漁期と同じく七月より八月頃の間ならんか之の漁期に際し糸滿村にて男女老幼數百人全村打揃ひ各自漁具を携へて之れが捕獲に從事することあり之を名付けてサガマと云ふ此魚の名を得たるは蓋し之れに依るなるへし
要するに飛魚は八重山列島到る處に梄息し何處の海にも多少あらざるはなし中にも波照間島近海は其の產出夥しく實に飛魚の棲窟とも稱すべし飛魚を漁すには網を用ふ而して其捕獲高の最も多きものはワタブタ、マルートビイヨの二種とす
●訂正前々號中八重山群島を題せる記事中鱶の項内に十八種中一種ヒチサバーを書漏せるに付左記の如く追加すべし
△ヒチサバー 此種は腹微白にして背部は微黒を帯ぶ其數多く性柔和其最大なるものも重さ十斤位に過ぎず鰭は不可なれど肉は頗る佳良なり四季漁するを得鱶は重に網を以て漁すと云ふ
現代仮名遣い表記
◎八重山群島 (十)
水産(続)
▲重要海産物
四、飛魚に七種あり左の如し
△マルートビイヨ 形大ならず重さ凡そ半斤位にして体稍々し故にマル-の称あり。その数多く孕卵期は三月より四月頃迄とし、漁期また三、四月頃なり。産地は八重山列島の内、波照間島近海に最も多し。
△ナガトビイヨ マル-に比すれば体稍々長大なり故に、これにナガートビイヨの称を附せり。孕卵期は十二月頃にして漁期は十二月より翌年正月頃迄とす。この種は八重山島近海には産出高少なしと。
△ヒラガマチヤ- この種は頭部扁平なるを以て俗にヒラガマチヤ-と称す。ナガートビイヨに比すれば体稍々少にして孕卵期は二月より三月頃迄。漁期も、あた二、三月頃なり産出又夥しく波照間島近海に最も多し。
△アカバネ- ヒラガマチヤ-に比すれば体稍々大なり。その数多くして孕卵期はヒラガマチヤ-と同じく二月よか三月迄にして漁期もまた二、三月迄なり。この種も波照間島近海に多し。本名はその鰭の赤色なるを以て斯く名付けしものなり。
△ヲートビイヨ 全体微青色を帯びて光沢あり体ヒラガマチヤ-よりは小なれどその数多く、孕卵期は三月より四月迄の間にして漁期もまた三、四月頃なり。
△ワタブタ 上記五■に比すれば体小なれど。その産出の夥しきこと飛魚中冠たるものにして、八重山列島中至る処に見ざるなし。孕卵期は五月六月の間にして漁期もまた五月より六月頃迄とす。この魚腹■膨大せるを以てワタブトの俗称を附せしと云ふ。
△サガマトビイヨ ワタブタに比すれば更に小にして、凡そ二十疋位を併さざれば一斤にも達せず、飛魚中最小なるものに属す。その数多く漁期は七、八月頃とす。孕卵期は判明せざれども、如くの数種を総合して推測すれば孕卵期も漁期と同じく七月より八月頃の間ならんか。この漁期に際し糸満村にて男女老幼数百人全村打揃い各自漁具を携へて、これが捕獲に従事することあり。之を名付けてサガマと云う。この魚の名を得たるは蓋しこれに依るなるべし。
要するに飛魚は八重山列島到る処に梄息し、どこの海にも多少あらざるはなし。中にも波照間島近海はその産出夥しく実に飛魚の棲窟とも称すべし。飛魚を漁すには網を用ふ、そしてその捕獲高の最も多きものはワタブタ、マルートビイヨの二種とす。
●訂正前々号中八重山群島を題せる記事中鱶の項内に十八種中一種ヒチサバーを書漏せるに付左記の如く追加すべし
△ヒチサバー 此種は腹微白にして背部は微黒を帯ぶ。その数多く性柔和。その最大なるものも重さ十斤位に過ぎず鰭は不可なれど肉は頗る佳良なり。四季漁するを得鱶は重に網を以て漁すと云う。