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◎八重山群島(八)

掲載年月日:1905/8/17(木) 明治38年
メディア:琉球新報社 2面 種別:記事

原文表記

◎八重山群島 (八)
 水產(續)
▲重要海產物の槪要 八重山諸島は魚介の種類極めて多く介類の如きは殆んど個々相異なれり而して其色彩の美麗なる粲爛目を奪ふものあり然れとも其生產高少く未だ以て廣く世の需要に供するに至らず唯だ玩弄品として爲せらるゝに過ぎざるのみ今茲に其主なるものに就て種類多少大小及其性質等の慨要を列叙すべし尤も取調に際し漁夫どもの發音に往々聞取り難きものありし爲め或は其名の誤記又は同物異名のものなきを保し難し尙ほ亦漁期朶卵期の如きも聞取りのまゝ舊歴に依て之を記せり
鱶、烏賊、飛魚、海鼠等種類の多きものは一々列擧して其外貌、重量、性質、漁期等順次に之を記すべし
一、鱶に十八種あり左の如し
△エーヂー 腹部は微白、脊は微黒、性は柔和にして其大なるものは重さ三百斤位より釣餌は■又は飛魚を用ふ漁期三四月頃なり此種と其數少しく鰭又下等あり
△ヲーナンヂヤー 此種は沿岸に近寄らず常に遠海に游弋し色はエーヂーと仝じく腹は微白、脊黒にして性柔は其大なるものは重二百斤位餌は豚肉を用ひ夏期に漁す其數多けれども肉鰭共によからず
△ウーサバー 此種は他種の如く体長からず胴圖くして重さ六七百斤に達するものなり性柔に色は上二種と同じ餌は多く豚肉鱶肉を用ひ夏期に漁し重に二三百尋の海底に栖息す其數少く肉は可なれど鰭は良品ならず
△マブカ 腹部微白眷微赤にして重さ百四五十斤餌は鰹飛魚を用ひ四季漁するを得其數多くして性又猛惡なれど肉鰭其に上品にして他の鱶に比すれば鰭數も多くして八個を有す
△クルー 色はエーヂー等の如く腹部微白背微黒にして性柔に其數又多くして重さ百斤位鰹或は飛魚を餌として夏期漁するに適し三四百尋の海底に棲意す其肉は可なれども鰭は劣等なり而して此種は背鰭を有せず
△シル- 重さ十斤位の小鱶にし腹背共稍々白色を帶び鰭小に百尋余の海底に多數栖息し性柔和餌は鰹飛魚を用ひ夏期に漁す
△ミナトユービノクワ 重さ二十斤位ありてエーヂー等と同じく腹微白背微黒性柔にして餌は鰹飛魚を用ひ四季共漁するを得多數沿岸に游弋するを見る此種はナカーの稚兒なりと云ふものありて更に研究を要す
△クチサバー 此鱶はクチ-と稱ふる魚に似る所あるを以て其名を付せりと云ふ重百斤位腹微白背微黒性柔に餌は鰹又は飛魚を用ふ此種は少數にして肉は可なれども鰭は不可なり
△タコクワヤー 色はマブカに似たれども性柔なり重量百斤位其數多く餌は大凡タコを用ひ四季漁するを得る鰭は不可なれども肉は頗る佳良なり此種は他種に比して鮫多し
△ヲキザーラ 此種は沿岸に近寄ることなく常に遠海に游泳し性柔腹微白背微赤にして長さ一丈四五尺に及び餌は飛魚又は鰹を用ふ漁期は七月九月迄の間にして鰭は上品なれど此の種は甚だ少數なり
△イツチヨ 此種は長さ三丈餘に達し性甚だ猛惡にして徃々其腹中より人の死体を見出すことあり重に深所に栖息し豚肉を餌とし八月より十月迄を漁期とす其數多く鰭は上品なり
△レロナカー 全体微白を帶び性柔重さ百五六十斤多く遠海に棲息し餌は鰹、飛魚を用ひ三四月頃を漁期とし鰭肉共に佳良なれど其數少なし
△マナカー (一名ヂスコー) 腹微白背微黒に性柔和にして重さ二百斤位其數多し餌は鰹飛魚を用ひ九月十一月迄を漁期とし重に海底二百尋の所に棲息す此種は久米島近海に多しと云ふ
△ヤマトナカー 此種も腹微白脊黒にして性柔重さ二百斤位其數は少く常に遠海にあれども重に水面を浮游する餌は鰹飛魚漁期は夏期なり
△ユーキヲヤー ナカーと稱する鱶に四種あり之れも其一種なり故に外貌性質重量等マナカーに似て餌も鰹飛魚を用ふ漁期は夏季なり
△ヲホバネー 性柔和にして重さ百四五十斤常に遠海に梄息し遠海に漁舟を浮ぶれば何處にも見得るを云ふ鰭又上品にして餌は豚肉を用ひ四月より六月迄を漁期とす
△カシ-(一名イーヘイ) 長さ一丈余に達し餌は鰹飛魚を用ひ四季共漁するを得鰭は上品にして其數甚だ多く遠近を問はず岸邊にも游來すると云ふ

現代仮名遣い表記

◎八重山群島 (八)
 水産(続)
▲重要海産物の概要 八重山諸島は魚介の種類極めて多く、介類の如きは殆んど個々相異なれり。そしてその色彩の美麗なる粲爛目を奪ふものあり。しかれともその生産高少く未だ以て広く世の需要に供するに至らず。唯だ玩弄品として為せらるるに過ぎざるのみ。今ここにその主なるものに就て種類多少大小及その性質等の概要を列叙すべし。もっとも取調に際し漁夫どもの発音に往々聞取り難きものありし為め、或はその名の誤記又は同物異名のものなきを保し難し。尚おまた漁期孕卵期の如きも聞取りのまま旧歴に依てこれを記せり。
フカ、イカ、トビウオ、ナマコ等種類の多きものは一々列挙してその外貌、重量、性質、漁期等順次にこれを記すべし。
一、フカに十八種あり左の如し。
△エーヂー 腹部は微白、脊は微黒、性は柔和にして、その大なるものは重さ三百斤位より。釣餌はカツオ又はトビウオを用う。漁期三四月頃なり此種とその数少しくヒレ又下等あり
△ヲーナンヂヤー この種は沿岸に近寄らず常に遠海に游弋し、色はエーヂーと同じく腹は微白、脊黒にして性柔にその大なるものは重二百斤位餌は豚肉を用い、夏期に漁す。その数多けれども肉ヒレ共によからず。
△ウーサバー この種は他種の如く体、長からず胴図くして重さ六七百斤に達するものなり。性柔に色は上二種と同じ。餌は多く豚肉フカ肉を用い夏期に漁し重に二三百尋の海底に栖息す。その数少く、肉は可なれどヒレは良品ならず。
△マブカ 腹部微白眷微赤にして重さ百四五十斤、餌はカツオ、トビウオを用い、四季漁するを得、その数多くして性又猛悪なれど、肉ヒレそれに上品にして他のフカに比すれば、ヒレ数も多くして八個を有す。
△クルー 色はエーヂー等の如く腹部微白背微黒にして性柔に其数又多くして重さ百斤位鰹或は飛魚を餌として夏期漁するに適し三四百尋の海底に棲意す其肉は可なれどもヒレは劣等なり而して此種は背ヒレを有せず
△シル- 重さ十斤位の小フカにし腹背共稍々白色を帯び、ヒレ小に百尋余の海底に多数栖息し、性柔和餌はカツオ、トビウオを用い夏期に漁す。
△ミナトユービノクワ 重さ二十斤位ありてエーヂー等と同じく腹微白背微黒性柔にして、餌はカツオ、トビウオを用い、四季共漁するを得、多数沿岸に游弋するを見る。この種はナカーの稚児なりと云うものありて更に研究を要す。
△クチサバー このフカはクチ-と称ふる魚に似る所あるを以てその名を付せりと云う。重百斤位腹微白背微黒性柔に、餌はカツオ又はトビウオを用う。この種は少数にして肉は可なれどもヒレは不可なり。
△タコクワヤー 色はマブカに似たれども性柔なり、重量百斤位その数多く餌は大凡タコを用い四季漁するを得る、ヒレは不可なれども肉は頗る佳良なり。この種は他種に比してサメ多し。
△ヲキザーラ この種は沿岸に近寄ることなく、常に遠海に游泳し性柔腹微白背微赤にして、長さ一丈四五尺に及び、餌はトビウオ又はカツオを用う。漁期は七月九月迄の間にしてヒレは上品なれど、この種は甚だ少数なり。
△イツチヨ この種は長さ三丈余に達し、性甚だ猛悪にして徃々その腹中より、人の死体を見出すことあり。重に深所に栖息し豚肉を餌とし八月より十月迄を漁期とす。その数多くヒレは上品なり
△レロナカー 全体微白を帯び性柔、重さ百五六十斤多く遠海に棲息し餌はカツオ、トビウオを用い三、四月頃を漁期とし、ヒレ肉共に佳良なれどその数少なし。
△マナカー (一名ヂスコー) 腹微白背微黒に性柔和にして重さ二百斤位その数多し。餌はカツオ、トビウオを用い九月十一月迄を漁期とし、重に海底二百尋の所に棲息す。この種は久米島近海に多しと云う。
△ヤマトナカー この種も腹微白脊黒にして性柔重さ二百斤位。その数は少く常に遠海にあれども、重に水面を浮游する餌はカツオ、トビウオ、漁期は夏期なり。
△ユーキヲヤー ナカーと称するフカに四種あり。これもその一種なり故に外貌性質重量等マナカーに似て、餌もカツオ、トビウオを用う。漁期は夏季なり。
△ヲホバネー 性柔和にして重さ百四五十斤、常に遠海に梄息し遠海に漁舟を浮ぶればどこにも見得るを云う。ヒレ又上品にして餌は豚肉を用い四月より六月迄を漁期とす。
△カシ-(一名イーヘイ) 長さ一丈余に達し餌はカツオ、トビウオを用い、四季共漁するを得。ヒレは上品にしてその数甚だ多く遠近を問はず岸辺にも游来すると云う。