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◎八重山群島(六)

掲載年月日:1905/8/13(日) 明治38年
メディア:琉球新報社 2面 種別:記事

原文表記

◎八重山群島 (六)
 鑛業
▲現今八重山群島に於て産する鑛物にして其主なるものは實に石炭金及銅の三種とす而して其質何れも良好にして將來極めて有望のものたるは亦衆蔗の齊しく認むる所なり西表島内離に於ける石炭は明治四十年初めて林多助氏の發見に係かり爾來三井及大倉組に就て一時盛んに之を採掘し來りしも何れも故あつて中止し現今鹿児島縣人林徳太郞氏其後を引受けて採掘に從事し台灣に向け續々之を輸送しつゝあり其採掘の方法に至りては抗口より海面數町の間棧橋を設けて輕便「レール」を敷設し直に滊船に積み入るゝ當大設計をたてゝ其業を執れり而して其運搬の至便なると炭質の良好なる當業者をして事此に至らしめしなり去る明治十八年益田考より沖縄縣廳に呈出せし意見書によれば其炭層及炭質に於て田川唐津と伯仲の間に在るものゝ如し而して其炭層の最も厚きは四尺二三寸にして中に一尺内外の石層を挟み居れど槪して三尺二三寸を下らざるものゝ如し又其炭量は大約百萬噸内外ならんとのことなり
▲金鑛は石垣島崎枝村附近に在りて從來鹿兒島縣人摴木嘉左衛門氏の試堀に係かり水車一臺を設置し以て斯業に從事し來りしも現今故あつて之を中止せり然りと雖も後來其施設宜しきを得て採掘するに至らば是れ亦多望なる事業となるべし
▲尙ほ亦輓近西表地方高那村に於て銅鑛試堀中のものもあり是れ亦將來多望の目途を有するものゝ如し
▲右は目今本群島に於ける鑛業の槪况を述べたるに過ぎずと雖ども亦熟々將來の鑛業を案ずるに鑛物露面の既に發見せられたるものにして未だ試堀に着手せざるもの西表島の西北面即ち租納、上原、崎山の諸村に在り而して其附近には大舩巨舶の碇舶所として最も有名なる舟浮の良港あれば此處のず將來斯業の盛大に行はるべき塲所たるや疑を容れず然り而して該島は由來療煙蠻雨の地たるの故を以て人跡未だ普からざる点なきを保し難し故に仮令沿岸の鑛物は既に其幾分か發見せられたりとするも該島深き内部の鑛物に至りては其充分なる探檢は今後の事業に属すべきを以て人跡漸く瘴露を破り鋭氣追々蠻煙を開くの機運に逢着せば良鑛の發見は蓋し豫想の外に出づべし
▲而して從來該島に於ける鑛物の發見は凡て舟浮港を距る近きは數町遠きも四里の外に出でずされば今後の發見に係かるべき筒所も鑛脈を異にせざる限りは亦此範圍を脫せざるべく從て運搬等の點に於ても不便を感ずるが如きなことなかるべし此外石垣島に銅鑛及炭層露出の筒所ありと雖ともこは何れも擴層薄く且つ運搬に更ならざるか故に之を採掘するも恐らくは收支相償はざるべし
▲安するに擴業は本群島に於ける事業中世人の最も望を嘱するものにして地理上販路を開くに極めて優勝なる地位を有し僅に一葦海水を渡れば臺灣、香港、厦門、福州其他海外諸港に向け直輸出をなし得るの便ありされば當業者にして施設其宜しきを得て熱心之に從事せんか其巨萬の利を得ること必然ならん

現代仮名遣い表記

◎八重山群島 (六)
 鉱業
▲現今八重山群島に於て産する鉱物にして、その主なるものは実に石炭、金及銅の三種とす。そしてその質いずれも良好にして将来極めて有望のものたるはまた衆蔗の斉しく認むる所なり。西表島内離に於ける石炭は、明治四十年初めて林多助氏の発見に係かり、爾来三井及大倉組に就て一時盛んにこれを採掘し来りしも、いずれも故あって中止し、現今鹿児島県人林徳太郎氏その後を引受けて採掘に従事し、台湾に向け続々これを輸送しつつあり。その採掘の方法に至りては、抗口より海面数町の間、桟橋を設けて軽便「レール」を敷設し、直に汽船に積み入るる当大設計をたてて斯業を執れり。そしてその運搬の至便なると炭質の良好なる当業者をして事、ここに至らしめしなり。去る明治十八年益田考より沖縄県庁に呈出せし意見書によれば、その炭層及炭質に於て、田川唐津と伯仲の間に在るものの如し、そしてその炭層の最も厚きは四尺二三寸にして、中に一尺内外の石層を挟み居れど概して三尺二三寸を下らざるものの如し。又その炭量は大約百万頓内外ならんとのことなり。
▲金鉱は石垣島崎枝村附近に在りて、従来鹿児島県人摴木嘉左衛門氏の試堀に係かり、水車一台を設置し以て斯業に従事し来りしも、現今故あってこれを中止せりしかりと雖も、後来その施設宜しきを得て採掘するに至らば、これまた多望なる事業となるべし。
▲尚おまた輓近西表地方高那村に於て銅鉱試堀中のものもあり。これまた将来多望の目途を有するものの如し。
▲右は目今、本群島に於ける鉱業の概况を述べたるに過ぎずと雖ども、また熟々将来の鉱業を案ずるに鉱物露面の既に発見せられたるものにして、未だ試堀に着手せざるもの西表島の西北面、即ち租納、上原、崎山の諸村に在り、そしてそ附近には大舩巨舶の碇舶所として最も有名なる舟浮の良港あれば、此処のず将来斯業の盛大に行はるべき場所たるや疑を容れずしかり。そして該島は由来療煙蛮雨の地たるの故を以て、人跡未だ普からざる点なきを保し難し故に、仮令沿岸の鉱物は既にその幾分か発見せられたりとするも、該島深き内部の鉱物に至りては、その充分なる探検は今後の事業に属すべきを以て、人跡漸く瘴露を破り鋭気追々蛮煙を開くの機運に逢着せば、良鉱の発見は蓋し予想の外に出づべし。
▲そして従来該島に於ける鉱物の発見は凡て舟浮港を距る。近きは数町、遠きも四里の外に出でずされば、今後の発見に係かるべき筒所も鉱脈を異にせざる限りは、またこの範囲を脱せざるべく従て運搬等の点に於ても不便を感ずるが如きなことなかるべし此外石垣島に銅鉱及炭層露出の筒所ありと雖ともこは何れも拡層薄く、且つ運搬に更ならざるか故に、これを採掘するも恐らくは収支相償はざるべし。
▲要するに拡業は本群島に於ける事業中世人の最も望を嘱するものにして、地理上販路を開くに極めて優勝なる地位を有し、僅に一葦海水を渡れば台湾、香港、厦門、福州その他海外諸港に向け直輸出をなし得るの便ありされば、当業者にして施設その宜しきを得て熱心之に従事せんかその巨万の利を得ること必然ならん。