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◎八重山群島(五)
原文表記
◎八重山群島 (五)
畜產(續)
▲牧塲は其所在地の村名を附して之が名稱と爲すと雖も其實は牧塲近在村民の共同牧塲たり而して之に放牧せる各畜主を牧人と云ふ牧塲の面積と之に放飼すべき畜數に關しては別に之れが制限を定めざるのみならず牧人も亦必ずしも其近在各村民に限ると云ふが如き慣例あるにあらず何人たりと雖も其牧塲に牛馬を放牧せんと欲せば先づ其旨を牧番人なるものに通じ牧番人は之を又他の牧人共に諮り其一同の協諾を得て之を許す是に於て始めて牧人たるものは從來の牧人共に酒肴を饗するの慣例ありしも現今に於ては之を金銭に改めたり之を相談料と名く既に相談料を出して牧人たるの資格を得れば其放牧すべき牛馬の數は固より其任意にして敢て他より關渉を受くることなし
▲以上は牧人たる資格を得るの慣例なり而して從來の牧人にして其仲間を脫するには多くは其随意ありと雖ども二三の牧塲に在りては其仲間を脫する際に必ず畜類一頭を其牧塲に残し置きて各牧人の共有となさしむる慣例あり是れ其牧塲維持の爲めに共同負債等ありて之に對する義務なりとす又一牧塲毎に必ず一名の管理人を置くを例とす之を牧番人と云ふ牧番人は常に牧塲を巡視して牛馬を管理し又は石垣等の破損あれば小修繕は自ら之を負擔し大修繕は牧人に報じて共同負續となさしむるなり
▲牧人の内凡そ二三人を撰定して牧塲に關する事務を依託す之を「牧ぶさ」と稱す「牧ぶさ」は牧人中一年間の期限を以て改撰するを例とすと雖とも稀には無期限なる牧塲あり
▲牧塲より遠隔の地に住居する牧人は其所有畜を管理する點に於て周密を欠くを以て其牧塲所在地の牧人に之れが管理を依託す此被依託人を名けて「預り人」と稱す其「預り人」の管理せる牛馬繁殖するときは所有主は之が報酬として其仔畜の三分の一を之に分與するを常とす或は又金銭を以て之に代ゆることあり
▲牧塲に關する共同費用は番人給料、石垣修繕費及牧寄費等なりとす而して其負擔法は牧塲に依て一定せずと雖とも或は其所有せる畜類の頭數に賦課する所あり或は牧人の數に賦課する所あり而して多は其後叚の法によれり
▲本群島畜產の狀况略ぼ前述の如し而して其方法に至ては頗ぶる見るべきものなきにあらずと雖とも亦將來大に改善を要すべき點尠からざるが如し即ち使用牛馬を虐待すること天然牧草の保護粗末なること等其最も不完全なる點なりとす故に將來本群島畜產の改良に向て施すべき方策は大略左の數項なるべし
一、牝牡混牧の習慣を矯正すること
二、体格性質の良好なるものを撰みて種牡と爲すこと
三、牧塲を三四區に小分し期節を定め毎區順を追ふて放牧し以て牧草の繁殖を圖ること
四、繁ぎ牛馬をして成るべく舍飼を爲さしむること
▲其他天然牧草の改良を企て種類の改良を圖ること等極めて必要なるべしと雖も此種の條件は本群島方今の民度に於ては容易に望むべからざることなるを以て漸次順を追ふて之を計劃するの至當なるを信ず
▲要之本群島現今の牧畜者中には畜產上充分の智識經驗を有するものなきを以て其管理飼養の不完全なる固より理無きに非らず故に將來相當の牧畜家をして其管理飼養の方法等を講ぜしめ以て其繁殖の途を圖るは最も必要なることなべし
現代仮名遣い表記
◎八重山群島 (五)
畜産(続)
▲牧場はその所在地の村名を附して、これが名称と為すと雖もその実は牧場近在村民の共同牧場たり、そしてこれに放牧せる各畜主を牧人と云う。牧場の面積とこれに放飼すべき畜数に関しては、別にこれが制限を定めざるのみならず。牧人もまた必ずしもその近在各村民に限ると云うが如き慣例あるにあらず。何人たりと雖もその牧場に牛馬を放牧せんと欲せば、先づその旨を牧番人なるものに通じ、牧番人はこれを又他の牧人共に諮りその一同の協諾を得てこれを許す。これに於て始めて牧人たるものは従来の牧人共に酒肴を饗するの慣例ありしも、現今に於てはこれを金銭に改めたり、これを相談料と名く既に相談料を出して牧人たるの資格を得れば、その放牧すべき牛馬の数は固よりその任意にして敢て他より関渉を受くることなし。
▲以上は牧人たる資格を得るの慣例なり。そして従来の牧人にしてその仲間を脱するには、多くはその随意ありと雖ども二三の牧場に在りては、その仲間を脱する際に必ず畜類一頭をその牧場に残し置きて、各牧人の共有となさしむる慣例あり。これその牧場維持の為めに共同負債等ありて、これに対する義務なりとす。又一牧場毎に必ず一名の管理人を置くを例とす。これを牧番人と云う。牧番人は常に牧場を巡視して牛馬を管理し、又は石垣等の破損あれば小修繕は自らこれを負担し大修繕は牧人に報じて共同負続となさしむるなり。
▲牧人の内凡そ二三人を選定して牧場に関する事務を依託す、これを「牧ぶさ」と称す。「牧ぶさ」は牧人中一年間の期限を以て改選するを例とすと雖とも稀には無期限なる牧場あり。
▲牧場より遠隔の地に住居する牧人は、その所有畜を管理する点に於て周密を欠くを以て、その牧場所在地の牧人にこれが管理を依託す。この被依託人を名けて「預り人」と称す。その「預り人」の管理せる牛馬繁殖するときは、所有主はこれが報酬としてその仔畜の三分の一をこれに分与するを常とす。或は又金銭を以てこれに代ゆることあり。
▲牧場に関する共同費用は番人給料、石垣修繕費及牧寄費等なりとす。そしてその負担法は牧場に依て一定せずと雖とも或は、その所有せる畜類の頭数に賦課する所あり。或は牧人の数に賦課する所あり。そして多はその後叚の法によれり。
▲本群島畜産の状况略ぼ前述の如し、そしてその方法に至ては頗ぶる見るべきものなきにあらずと雖とも、また将来大に改善を要すべき点尠からざるが如し。即ち使用牛馬を虐待すること天然牧草の保護粗末なること等、その最も不完全なる点なりとす故に、将来本群島畜産の改良に向て施すべき方策は大略左の数項なるべし
一、牝牡混牧の習慣を矯正すること
二、体格性質の良好なるものを選みて種牡と為すこと
三、牧場を三四区に小分し期節を定め、毎区順を追ふて放牧し以て、牧草の繁殖を図ること
四、繁ぎ牛馬をして成るべく舎飼を為さしむること
▲その他、天然牧草の改良を企て種類の改良を図ること等、極めて必要なるべしと雖もこの種の条件は本群島方、今の民度に於ては容易に望むべからざることなるを以て、漸次順を追うてこれを計画するの至当なるを信ず。
▲要之本群島現今の牧畜者中には、畜産上充分の智識経験を有するものなきを以て、その管理飼養の不完全なる固より理無きに非らず故に、将来相当の牧畜家をしてその管理飼養の方法等を講ぜしめ以て、その繁殖の途を図るは最も必要なることなべし。