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◎八重山群島(四)

掲載年月日:1905/8/7(月) 明治38年
メディア:琉球新報社 2面 種別:記事

原文表記

◎八重山群島 (四)
 畜產
世の進運に伴ふて畜產事業の必要益々大なるは勢力の然らしむる所にして八重山郡島に於ける仝事業は亦最も多望なるものなり今其■今發達の狀態及其將來に於ける經營の一端を述べ以て世の参考に資せんに抑々本群島の畜產は牛、馬、山羊、豚の四種あり而して其性質に於ては各々殊なる所あるを以て今左に各種に就き其概要を摘戯すべし
▲牛、は軀幹偉大にして骨格逞しく体の各部能く其鈎合を得て性質亦温柔なり故に能く之を飼養せば其農用及肉用に適するや論なし
▲馬、は体格矮小なるも脚蹄頗ぶる堅固にして能く險路を驅るに堪へ性質亦温和なるが故に之を乗用及農用に使役して更に不可なることなし
▲山羊、は其体格他地方產に比すれば稍々偉大にして且つ強状なり故に肥満し易き特性あるが如し
▲豚、は其在來種は体格小にして肥痩性に乏しきが如しと雖も輓■島民自ら進んで其郡類の改良に意を注ぎ既に良精を輸入して繁殖の道を講じつゝある去れば養豚事業は本群島に於て特■の副產事業として將來最も多望なる目途を有す由來本島民は畜產を以て殆んど唯一の財產となせるを以て從て其數の多きは縣下第一位を占めたり今本群島に於ける牛馬山羊豚の飼養數を擧ぐれは慨ね左の如し
 牛   六千三百餘頭
 馬   二千七百餘頭
 豚   五千七百餘頭
 山羊 七百餘頭
由之觀是其頭數は割合に甚だ多しと雖ども其飼養管理の方法に至りてば又頗る■宜しに適せざるものあり現時の牛馬飼養法に繫飼と放牧の二法あり
▲繫飼 牧塲に放飼したる牛馬凡そ三歳以上に達すれば之を捕へ來りて養用に供す之を繫ぎ牛馬と云ふ而して平素は住居近き原野に長き手綱を附し之を繫留して野草を食ましめ用ある時は之を引き來りて使役す從て降雨の時又は旱天の日と雖とも保護を與ふること稀にして所有者は出入共に其馬に乗り以て其用を弁ずるを常とす要するに本群島農民は其繫ぎ牛馬の飼養管理甚だ粗末なりと謂ふべし
▲放牧 放牧の方法に至りては割合に能く發達したるものゝ如し今左に其慨要を述ふれば本群島に於ける牧塲が慨して土質良好の平坦なる塲所を撰定し其塲内には幾多の渓流ありて自ら畜類の飲料となり其渓流の両側には「コウナ」木「オホダラ」木等の如き綠樹繁茂し且つ塲内各所に殆んと喬木然たる阿旦の叢生せるありと畜類の雨露を凌ぐに最も便なりとす牧塲内に自生せる牧草は固より天然の■生に一任せるも土質肥沃にして氣候■温和なるを以て慨して牛塲の嗜好に適せるものゝ如し牧塲の周圍には高さ三四尺の石垣を築き又は阿旦を植へ其出入口には一の門戸を設けて牛馬の奔逸を防遏せり放牧せる畜類は凡て牛馬牝牡共に雑居せしむる■故に其繁殖も自由交尾に任すを以て其結果善良なる畜類を得る能はざるもの弊なきを得ず是れ實に本島牧塲の一大欠點なり而して其管理の方法は毎年舊二月九月の両期に於て牧寄と稱し總ての牛馬を牧塲内の都合好き一隅に遂ひ集めて各自所有の牛馬を點檢し其牛馬の両耳端に切目を隋し以て自他の標識と爲す其方法少しく酷に失するの憾なき能はず故に他に良法の■任せられんことを望む而して本島に於て使用する牛馬は皆三歳以上のものにして牧寄の際に之を捕へ來るを常とす但し牛の使用牝牡を貴■牝牛の如きは其性質悍なるものゝみを農用に■し其他は凡て終年牧塲に放ちて繁殖用に■す如牝牛の使用は牡に限らず難も水田整地の時には放牧せる牝牛を駆し來りて水田に追ひ込み以て其の整地■用に供することあり

現代仮名遣い表記

◎八重山群島 (四)
 畜産
世の進運に伴ふて畜産事業の必要益々大なるは、勢力の然らしむる所にして八重山郡島に於ける同事業は、また最も多望なるものなり今その■今発達の状態及その将来に於ける経営の一端を述べ以て世の参考に資せんに抑々本群島の畜産は牛、馬、山羊、豚の四種あり。そしてその性質に於ては各々殊なる所あるを以て、今左に各種に就きその概要を摘戯すべし。
▲牛、は軀幹偉大にして骨格逞しく体の各部能く、その鈎合を得て性質また温柔なり。故に能くこれを飼養せばその農用及肉用に適するや論なし。
▲馬、は体格矮小なるも脚蹄頗ぶる堅固にして能く、険路を駆るに堪へ性質また温和なるが故に、これを乗用及農用に使役して更に不可なることなし。
▲山羊、はその体格他地方産に比すれば稍々偉大にして且つ、強状なり故に肥満し易き特性あるが如し。
▲豚、はその在来種は体格小にして肥痩性に乏しきが如しと、雖も輓■島民自ら進んでその郡類の改良に意を注ぎ既に良精を輸入して繁殖の道を講じつつある。去れば養豚事業は本群島に於て特■の副産事業として将来最も多望なる目途を有す。由来本島民は畜産を以て殆んど唯一の財産となせるを以て従て、その数の多きは県下第一位を占めたり今本群島に於ける牛馬山羊豚の飼養数を挙ぐれは慨ね左の如し
 牛   六千三百余頭
 馬   二千七百余頭
 豚   五千七百余頭
 山羊 七百余頭
由の観、これその頭数は割合に甚だ多しと雖どもその飼養管理の方法に至りてば又頗る■宜しに適せざるものあり現時の牛馬飼養法に繋飼と放牧の二法あり。
▲繋飼 牧場に放飼したる牛馬凡そ三歳以上に達すれば、これを捕へ来りて養用に供す。これを繫ぎ牛馬と云う。そして平素は住居近き原野に長き手綱を附し、これを繋留して野草を食ましめ、用ある時はこれを引き来りて使役す。従て降雨の時又は旱天の日と雖とも保護を与ふること稀にして、所有者は出入共にその馬に乗り以てその用を弁ずるを常とす。要するに本群島農民はその繫ぎ牛馬の飼養管理甚だ粗末なりと謂ふべし。
▲放牧 放牧の方法に至りては割合に能く発達したるものの如し。今左にその慨要を述ふれば、本群島に於ける牧場が慨して土質良好の平坦なる塲所を選定し、その場内には幾多の渓流ありて自ら畜類の飲料となり、その渓流の両側には「コウナ」木「オホダラ」木等の如き緑樹繁茂し、且つ場内各所に殆んと喬木然たる阿旦の叢生せるありと、畜類の雨露を凌ぐに最も便なりとす。牧場内に自生せる牧草は固より天然の■生に一任せるも、土質肥沃にして気候■温和なるを以て慨して牛場の嗜好に適せるものの如し。牧場の周囲には高さ三四尺の石垣を築き又は阿旦を植へその出入口には一の門戸を設けて牛馬の奔逸を防遏せり。放牧せる畜類は凡て牛馬牝牡共に雑居せしむるが故にその繁殖も自由交尾に任すを以て、その結果善良なる畜類を得る能はざるもの弊なきを得ず。これ実に本島牧場の一大欠点なり。そしてその管理の方法は毎年旧二月九月の両期に於て牧寄と称し、総ての牛馬を牧場内の都合好き一隅に遂い集めて、各自所有の牛馬を点検しその牛馬の両耳端に切目を隋し以て、自他の標識と為す。その方法少しく酷に失するの憾なき能はず故に、他に良法の■任せられんことを望む。そして本島に於て使用する牛馬は皆三歳以上のものにして、牧寄の際にこれを捕へ来るを常とす。但し牛の使用牝牡を貴■牝牛の如きは、その性質悍なるものゝみを農用に■し、その他は凡て終年牧場に放ちて繁殖用に■す如。牝牛の使用は牡に限らず難も水田整地の時には放牧せる牝牛を駆■来りて水田に追ひ込み以てその整地■用に供することあり。