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◎八重山群島(一)

掲載年月日:1905/8/1(火) 明治38年
メディア:琉球新報社 2面 種別:記事

原文表記

◎八重山群島 (一)
本群島の地理及產業中の農事の状況に就きては既に昨秋の本紙に掲載したり今其農事以外の產業に就き實地調査の事項を順次號を追ふて紹介すべし
 產業
▲開墾事業の槪况
去る明治二十四年一月本群島開墾内規の一たび規定せらるゝや世に開墾事業の難易を知ると識らざるとに論なく一時四方に喧囂し爾來今日に至るまで事業家は競ふて開墾借地の出願をなし來りしも中には無經驗なる事業家ありて未だ許可をも得ざる■に早や農夫等を引具して渡島し其許可を得たる際には既に資金の過半を消尽して何の爲すなく空しく退島するが如き實に可憐なる失態を演じたるもあり又許可を得て後着手したるものにも計策其宜しきを得ず中途にして挫折したるもあり甚しきに至りては一文の食費だも所持せずして漫然來島するが如き無謀なる事業家等もありて其形跡■より一様ならざるも要するに從來本群島に於ける開墾事業は大小となく槪して失敗の悲跡を印せるものゝみなり而して其失敗の重なる原因は事業家の無經驗にして其熱誠の乏しきと資金の缺■たるとに在しものゝ如し然るに多數の失■家勵もすれば自己過失の罪を全然風土病に嫁し以て其責を免れんとす思はざるの甚しきものと謂ふべし見よ今日共に有病地と稱せらるゝ名藏及ひ野田に於ける開墾事業の盛况は奈何其失敗の原因が必ずしも風土病に基因せざる亦知るべきなり况んやまた彼の瘴氣深き桴海村の山奥に於て幾多の艱難を排し鋭意珈琲栽培に從事せる小田秀吉翁の如き精神的事業家のあるありて其事業の好績は隅々以て從來の失敗者と戒むるに足るものあるに於てをや元來風土病の如きは衛生に注意して充分自衛の道を尽さば世人の豫想するが如く若くは世上に言ひ囃さるゝ如くに夫れ程怖るゝに足らざる病なることは巳に實地探險家の知悉せる所なり苟くも百難を排して最後の利益を得んと欲せば其身先づ經驗あり資力ありて後燃ゆるが如きの熱試を以て事に當り而かも忠實なる農夫を使役して事業の進捗を圖り常に主從相俟て一意協力並行同進するにあらずんば成し能ふ所に非ず(未完)

現代仮名遣い表記

◎八重山群島 (一)
本群島の地理及産業中の農事の状況に就きては既に昨秋の本紙に掲載したり今其農事以外の産業に就き実地調査の事項を順次号を追うて紹介すべし
 産業
▲開墾事業の概况
去る明治二十四年一月本群島開墾内規の一たび規定せらるるや、世に開墾事業の難易を知ると識らざるとに論なく一時四方に喧囂し、それ以来今日に至るまで事業家は競うて開墾借地の出願をなし来りしも、中には無経験なる事業家ありて未だ許可をも得ざる■に早や農夫等を引具して、渡島しその許可を得たる際には、既に資金の過半を消尽して何の為すなく、空しく退島するが如き実に可憐なる失態を演じたるもあり。又許可を得て後、着手したるものにも計策その宜しきを得ず、中途にして挫折したるもあり。甚しきに至りては一文の食費だも所持せずして、漫然来島するが如き。無謀なる事業家等もありてその形跡■より一様ならざるも、要するに従来本群島に於ける開墾事業は大小となく概して失敗の悲跡を印せるもののみなり。そして、その失敗の重なる原因は事業家の無経験にして、その熱誠の乏しきと資金の欠■たるとに在しものの如し。しかるに多数の失■家励もすれば自己過失の罪を全然風土病に嫁し以て、その責を免れんとす思はざるの甚しきものと謂ふべし。見よ今日共に有病地と称せらるる名蔵及び野田に於ける開墾事業の盛况は奈何その失敗の原因が必ずしも風土病に基因せざる亦知るべきなり况んや。また彼の瘴気深き桴海村の山奥に於て幾多の艱難を排し、鋭意珈琲栽培に従事せる小田秀吉翁の如き。精神的事業家のあるありてその事業の好績は、隅々以て従来の失敗者と戒むるに足るものあるに於てをや元来風土病の如きは衛生に注意して充分自衛の道を尽さば世人の予想するが如く。もしくは世上に言ひ囃さるる如くにそれ程怖るるに足らざる病なることは、巳に実地探険家の知悉せる所なり。苟くも百難を排して最後の利益を得んと欲せば、その身先づ経験あり資力ありて後燃ゆるが如きの熱試を以て事に当り、しかも忠実なる農夫を使役して事業の進捗を図り、常に主従相俟て一意協力並行同進するにあらずんば成し能ふ所に非ず。(未完)