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◎博覽會雜記(續)鹽浦
原文表記
◎博覽會雜記 (續) 鹽浦
「素人」がまだ書ふと思ふて未完なんかと未練を殘せしも、斯くてハ僕の槿花一朝の榮を得るの期なし謙讓ハ昔の美德であるけれども今の世ハチト考へものなりいでや蛇足を添へん哉
水產の陳列ハ塲所の塲所にして、眞珠貝殻を以て龍を造りて左右の裝飾となし、中央にハ黑蝶介を立て介面に眞珠にて沖繩の文字を表はし、前に黑き海松を植て裝飾せり両方の壁に簾を用ゐるなど、夏向きにハ凉しく見へて、匂多き海產物の陳列としてハ、恐らく塲内第一等なるべし。
裝飾には、珍を競ひ爭ひしなれども、肝心なる主人公とも云ふき出品物が僅かに、眞珠、鯣、鱶鰭、海參貝殻類等之四種とありては、如何にも物淋しき感ありき。
幾十のサツク上段より下段に並べて、恰も白露千顆朝日に映したるが如く、奇麗なるは、古賀氏の眞珠出品なり聞く。
古賀氏ハ購買者の便利の爲に、斯く爲たりと。
之れ好き思ひ付きならんかなれども何となく小間物店に行きたるか如く奧まて見えて產地の出品としての見榮へなき氣持せり。
農產物の陳列ハ、門の左手ハ芭蕉苧麻等の繊維を吊して凉しく風にそよげり、右手には箱入りの硝子蓋なる米大豆等あり、中央は六角形の陳列臺にして豚の化身たる食品貯藏會社の鑵詰類が圓陣
を作りて敵を待てり、一回も戰爭なかりしにや総て健康体と見えて、賣約濟の赤符見■らさりき其後の長方形なる陳列臺か縣下主要の產物たる砂糖の牙營とハ此處ぞと知られけり。
後陣とでも形容すへき所に打てば、ブー々々と鳴るかと思ふばかりの太鼓形の小樽一ッ一ッあり之れ豚肉を鹽漬したるものなり出品僅少ななるを以て普通の縱覽者は迚も氣付かさるべし斯く申す僕も氣付がずして見落さんとしたる一人なり、樽詰なるを以て外觀上豚肉たるを知ること能はず出品点數亦僅に一二而して縱覽者に注意せしめんとす頗る無理の注文ならすや後■の御祭りなれども一個の容積を多量ならしめんよりは寧ろ之を减少して個數を增加し一二三四を積み重ねたらば却て縱覽者の注意を引き易きならんにし。
林業、本縣ハ林產國にあらす樹木標本の出品ハ本縣には此の如き樹木產出すと世人に紹介するの意ならん今後に於ては臺灣舘の如く樹木の標本に添ふるに其樹葉を以てせば專門家ならぬ一般の縱覽者にも頗る有益ならむ
漆器ハ本縣主要物產の一なり故に塗色に就ては慾目かは知らねとも迚も他縣の企及する所ふ非ざさるか如し然れども之に施したる繪画に生色なきを以て塗色と配合せざるの感あり、想ふに職工に
相應の敎育なかりし結果に非ざるなきや出品に限らす賣品でも具体的ならねばならなぬ即ち■匠と地質との配合にとの配合に注意せざるべからす然らされハ折角上等に塗り上げたる器具に繪画の拙なる爲思はぬ不利益を蒙ることあり、故に職工にも敎育の要あり出品者が今後この点に留意せられんことを望む。
まだ書きたきにより「素人」に傚ふて、未完と云ふ未練の代名詞を用ゐたいけれども、斯くてハ後の蔭武者か承知すまじければ…
現代仮名遣い表記
◎博覧会雑記 (続)塩浦
「素人」がまだ書くと思うて未完なんかと未練を残せしも、斯くては僕の槿花一朝の栄を得るの期なし。謙虚は昔の美徳であるけれども今の世はチト考えものなり、いでや蛇足を添へん哉。
水産の陳列は場所の場所にして、真珠貝殻を以て龍を造りて左右の装飾となし、中央には黒蝶介を立て介面に真珠にて沖縄の文字を表はし、前に黒き海松を植て装飾せり。両方の壁に簾を用いるなど夏向きには涼しく見へて、匂多き海産物の陳列としては恐らく場内第一等なるべし。
装飾には、珍を競い奇を争いしなれども、肝心なる主人公とも云うべき出品物が僅に真珠、鯣、鱶鰭、海三貝殻類等之四種とありては如何にも物淋しき感ありき。
幾十のサック上段より下段に並べて、恰も白露千顆朝日に映したるが如く奇麗なるは、古賀氏の真珠出品なり聞く。古賀氏は購買者の便利の為めに斯く為たりと、之れ好き思ひ付きならんかなれども、何となく小間物店に行きたるが如く奥まで見えて産地の出品としての見栄へなき気持せり。
農作物の陳列は、門の左手は芭蕉苧麻等の繊維を吊して涼しく風にそよげり、右手には箱入りの硝子蓋なる米大豆等あり。中央は六角形の陳列台にして、豚の化身たる食品貯蔵会社の缶詰類が円陣を作りて敵を待てり、一回も戦争なかりしにや総で健康体と見えて、売約済みの赤符見■らざりき、其後の長方形なる陳列台か県下主要の産物たる砂糖の牙営とは此処ぞと知られけり
後陣とでも形容すべき所に、打てばブ―々々と鳴るかと思ふばかりの太鼓形の小樽一つ二つあり、之れ豚肉を塩漬したるものなり。出品僅少なるを以て普通の縦覧者は迚も気付かさるべし、斯く申す僕も気付かずして見落さんとしたる一人なり。樽詰なるを以て外観上豚肉たるを知ること能はず。出品点数亦僅に一二而して縦覧者に注意せしめんとす頗る無理の注文ならずや後■の御祭れなれども、一個の容積を多量ならしめんよりは寧ろ之を減少して個数を増加し、一二三四と積み重ねたらば却て縦覧者の注意を引き易きならんにし
林業、本県は林産国にあらず。樹木標本の出品は本県には此の如き樹木産出すと世人に紹介するの意ならん。今後に於ては、台湾館の如く樹木標本に添ふるに其樹葉を以ってせば、専門家ならぬ一般の縦覧者にも頗る有益ならむ
漆器は本県主要物産の一なり、故に塗色に就ては慾目かは知らねども、とても他県の企及する所に非ざるか如し。然れども之に施したる絵画に生色なきを以って塗色と配合せざるの感あり、想ふに職工に相応の教育なかりし結果に非ざるなきや。出品に限らず売品でも具体的ならねばならぬ、即ち■匠と地質との配合に注意せざるべからず。然らざれば折角上等に塗り上げたる器具に、絵画の拙なる為め思はぬ不利益を蒙ることあり。故に職工にも教育の要あり。出品者が今後此の点に留意せられんことを望む。
まだ書きたきにより「素人」に倣ふて、未完と云う未練の代名詞を用いたいけども、斯くては後の影武者が承知すまじければ…。