明治30年代

現代仮名遣い表記

●訪問録（南清貿易に就て）
◎譜久里宗業
当地よりの輸出品としてはスルメ、カラス、フカのヒレ等の如き海産物又は無地の芭蕉布の如き反布類は随分見込ありとの事なり。又た塩は福州辺に於ては専売業者ありて広く販売する者なきゆえに、需要者の多き割合には供給者少なく従って高価なりとの事なれば当地の塩を輸出して彼地に販売せば利潤を得べしと思はるるなり。支那茶は当地人の嗜好する所にして年々需要増加の有様なれば、若し福州貿易開始の暁には支那茶の輸入のみにても五万円の価格に上るの見込あらん歟と想像するなり。福州との貿易を開始して那覇の開港場を支持するに就ては、輸出入貨物の有無はさほど憂うるに足らざれど、貿易を始めるには航路を開かざるべからず。しかも之に政府の保護を要する事は目下の事情己を得ざるべし、実に開港場を支持すると否とは県下の利害得失及び体面にも関する事なれば、県人挙って講究し等閑に附すべきものにあらずと信ずるに、ただ業務多端に取紛れ知らず識らず県下の重要事件を冷淡に過し、今突然訪問せられてこの問題に接す、実に汗顔に堪へざる次第なり。希くは新聞紙上に於ても広く世人に注意を促されよ、余深く常世の青年諸子に望を属し、その意見を聞くを楽とするものなり。及はずながら青年諸子の助力に依りて県下の為めに尽瘁するは余が平生の希望なり。
◎山里永錫
南清貿易の事については、実地に立入りて調査を為したる事なれば確乎たる意見はなきも、大体に就ていえば直接の航路さえ開かるるに於ては茶の輸入、海産物の輸出等にても、五万円の価格に上るべき見込あらんかとも思はるるなり。詳細の事は実地に視察したる人にあらざれば分からざるべく、視察かたがた商用にて彼地へ渡航せる比嘉次良といえる人近々の内帰県の筈なれば、この人に御面会あらば随分有益なる話あるべし。その人帰県の上はお知らせ申すべし。（この訪問は比嘉次良がまだ帰県せざる前の事に属せり）
◎嘉数詠顕
直接の航海を開き実際の貿易を始めるに於ては、支那茶の如きアーランチエーの如き当地の需用、年々増加の有様なるを以て之を直接に輸入する事になれば、之のみにても其五万円には下らざるべしと思惟す。その他輸入すべきもの輸出すべきもの多々あるべきを以て、政府に於て保護を与えて航路を開く運びになれば、開港場を支持することむつかしき事にはあらざるべし。
◎津嘉山珍基
余は首里人なり、如何で海外貿易の事を知り得べきや。南清貿易の事は那覇の実業家か又は寄留商人に問うに如かざるなり。但し、南清貿易は将来有望なりと云う事だけは信ずるを以て、直接の航路さえ開かるに於ては開港場を支持し得べしとは思ふなり。
●整理局の移転期
過日の紙上に臨時沖縄県土地整理局が首里へ移転する段は、取り敢えず報道し置きしが、なお聞く所に拠れば、同局員諸氏に於ては数日前より首里区役所員同行兼て相談済みとなりたる民家の（宿所）模様を一覧したりとの事にて、その移転期日は多分本月末頃なりという。