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●渡淸道中日誌(續)

掲載年月日:1900/1/21(土) 明治33年
メディア:琉球新報社 1面 種別:記事

原文表記

●渡淸道中日誌  (續)
香港の客寓に於て   半狂生
十六日晴 晝より領事に面會し香港に向て添書を得んことを乞ふ時に香港なる三井物産會社の社員在厦中にて近々歸香の筈なり今晩來舘するの約あれは紹介せんと云はるゝを幸とし時刻より更に赴く幡生彈次郎と云ふ人なり外に當港同社支配人田崎台灣銀行の出張員大坪の二氏來會し一同晩餐の饗を受け幡生氏と同行を約して歸る
十七日晴 朝知事は煉瓦の製造を見ん爲め石碼と云ふ所に掛かる自分等は赴香の期迫りたるに依り終日書簡を認め荷物を整理するなと準備に急はし晩より赤塚副領事の一行を招かれたるに赴く日本料理の御馳走に快談を尽して十一時過歸宿す
十八日晴 朝三井物産會社を訪ふ幡生氏には愈々本日出港のドグヲス滊船より歸香すへき由の話あり領事舘に立寄り上野領事を始め一同に暇乞をなし早々歸宿して行李を収め午后四時知事一行に袖を分つ出覇以來凡そ四十日海となく陸となく朝夕寝食を共にし加ふるに知事を始め随行諸氏の厚情を受け茲に他鄕に於て更に相別るゝに至ては亦た一点の感慨なきに非す時器情なく門前互に健康を叙して古賀尾瀧の両氏と共に番船を走らせて本船海壇號に乗る幡生氏巳に乗船して待てり船客滿員三人漸く一室に同宿することを得て間もなく出帆す東風強くして海上荒るゝを豫想したれとも割合に船の動揺なく共に安眠することを得たり
 因に記す知事の一行は來る廿日出港の淡水丸より臺灣に赴き總督に向て用談をなし便次
 第歸覇せらるゝ筈なり
十九日晴 午后六時過仙頭港に着す行程凡そ百二十里と港は河口にありて河を韓江と稱す上流に潮州府あり韓退之か潮州に謫せらるゝの時、好我埋骨瘴江邊とか吟せし因みに依りて名つけし上ものならんかと想はる同九時頃幡生氏と共に上陸して三井物産會社の代理店たる德記洋行に憇ひ市中を散見して十二時過歸船す
  仙頭
■ワトウと稱す廣東省潮州府に属し韓江の北岸にあり清國開港塲の一にして人口十四五万ありと云ふ海岸一帯の地は概ね煉瓦建の藏庫併立し桟橋の設けありて小なる滊船は横付にすることを得肆店の繁昌は幾分か福州厦門に及はさるの觀あれとも街路の清潔なること該の地方に於て多く見るヘからす貨物の重なるものは砂糖、■等を産し米、大豆、綿糸等を輸入すと云ふ菓物は密柑を以て名あり器具は錫細工を多く販賣せり
此日午后五時前出港す東風猶ほ強くして船少しく動揺す晩食を終て早くに寝に就く(未完)

現代仮名遣い表記

●渡清道中日誌  (続)
香港の客寓に於て   半狂生
十六日晴 昼より領事に面会し香港に向て添書を得んことを乞ふ。時に香港なる三井物産会社の社員在厦中にて近々帰香の筈なり、今晩来館するの約あれば紹介せんと云わるるを幸とし時刻より更に赴く。幡生弾次郎と云う人なり、外に当港同社支配人田崎、台湾銀行の出張員大坪の二氏来会し一同晩餐の饗を受け、幡生氏と同行を約して帰る。
十七日晴 朝、知事は煉瓦の製造を見ん為め石碼と云う所に掛かる。自分等は赴香の期迫りたるに依り、終日書簡を認め荷物を整理するなど準備に急はし晩より赤塚副領事の一行を招かれたるに赴く。日本料理の御馳走に快談を尽して十一時過帰宿す。
十八日晴 朝、三井物産会社を訪る、幡生氏には愈々本日出港のドグヲス汽船より帰香すべき由の話あり。領事館に立寄り上野領事を始め一同に暇乞をなし早々帰宿して行李を収め、午後四時知事一行に袖を分つ。出覇以来凡そ四十日海となく陸となく朝夕寝食を共にし、加ふるに知事を始め随行諸氏の厚情を受け茲に他郷に於て更に相別るるに至っては、亦た一点の感慨なきに非ず時器情なく門前互に健康を叙して古賀、尾滝の両氏と共に番船を走らせて本船海壇号に乗る。幡生氏巳に乗船して待てり、船客満員三人漸く一室に同宿することを得て間もなく出帆す。東風強くして海上荒るるを予想したれども、割合に船の動揺なく共に安眠することを得たり。
 因に記す、知事の一行は来る二十日出港の淡水丸より台湾に赴き、総督に向て用談をなし、便次第帰覇せらるる筈なり。
十九日晴 午後六時過、仙頭港に着す。行程凡そ百二十里と港は河口にありて河を韓江と称す。上流に潮州府あり韓退之か潮州に謫せらるるの時、好我埋骨瘴江辺とか吟せし、因みに依りて名づけし上ものならんかと想はる。同九時頃幡生氏と共に上陸して三井物産会社の代理店たる徳記洋行に憇ひ市中を散見して十二時過帰船す。
  仙頭
■ワトウと称す。広東省潮州府に属し韓江の北岸にあり,清国開港場の一にして人口十四五万ありと云う。海岸一帯の地は概ね煉瓦建の倉庫併立し桟橋の設けありて小なる汽船は横付にすることを得、商店の繁昌は幾分か福州厦門に及ばざるの観あれども、街路の清潔なること該の地方に於て多く見るべからず。貨物の重なるものは砂糖、■等を産し米、大豆、綿糸等を輸入すと云う。菓物は密柑を以て名あり、器具は錫細工を多く販売せり。
此日、午後五時前出港す。東風なお強くして船少しく動揺す、晩食を終て早くに寝に就く。 (未完)