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◎剃刀で自殺せんとす
原文表記
◎剃刀で自殺せんとす
▼腹を一文字に切る
那覇區字泉崎二〇七七阿波根龜(二六)は一昨十六日午前十時ごろ自宅に於て自殺せんと剃刀を以て腹を切り苦悶し居たるを家族のものに知られやつと一命は助かりしが其の顛末を聞くに右龜は母と二人暮らしにて父の在生中四五年前家屋敷を抵當に區内字東七一六宮城カメより二百六十圓借財し去る明治四十三年は返濟の期限になり返金の請求を受けたるに當時龜は在營中なれば獨り心配し居たるを仝家借家人に古賀辰四郞方の雇人桑江龜なるものの居たるを幸此のものに依賴し家屋敷を古賀に三百圓にて賣り渡し此の金を以て宮城に返濟し今日迄で無事に通し来るが近頃になり古賀方より立退きを命ぜられたるに甕は賣り渡したものとは少しも知らず三百圓は家屋敷を抵當に借用せしものとのみ思ひ直ちに右賀方に行き母が差入たる三百圓の借用証書を一見したしと乞ふに汝は気狂せしにあらずやと冷笑されたるを甚た殘念に思ひ家屋敷を抵當に引上けたる上は借用証書を返す可きを証書を返さヽるみか見せず人を瞞着するとは實に耻辱叶上なし夫れよれは寧ろ自殺して人の笑を免かるゝに如かずと斯く淺墓な考えへ違いより剃刀を以て臍上右側部横に長さ一寸位深さ一分位切りたるが幸に家族のものに助けられ生命には差支へなしと
現代仮名遣い表記
◎剃刀で自殺せんとす
▼腹を一文字に切る
那覇区字泉崎二〇七七阿波根亀(二六)は、一昨十六日午前十時ごろ自宅に於て、自殺せんと剃刀を以て腹を切り苦悶し居たるを家族のものに知られ。やっと一命は助かりしが、其の顛末を聞くに、右亀は母と二人暮らしにて、父の在生中、四五年前家屋敷を抵当に区内字東七一六宮城カメより、二百六十円借財し去る。明治四十三年は返済の期限になり、返金の請求を受けたるに当時亀は在営中なれば独り心配し居たるを、同家借家人に古賀辰四朗方の雇人桑江亀なるものの居たるを幸此のものに依頼し、家屋敷を古賀に三百円にて売り渡し、此の金を以て宮城に返済し、今日迄で無事に通し来るが。近頃になり、古賀方より立退きを命ぜられたるに亀は売渡したものとは少しも知らず、三百円は家屋敷を抵当に、借用せしものとのみ思い、直ちに右賀方に行き、母が差入れたる三百円の借用証書を一見したしと乞うに、汝は気狂せしにあらずやと冷笑されたるを甚た残念に思い。家屋敷を抵当に引上げたる上は、借用証書を返す可きを証書を返ささるみか、見せず人を満着するとは、実に耻辱叶上なし。夫れよれは、寧ろ自殺して人の笑を免かるるに如かずと、斯く浅墓な考え違いより、剃刀を以て臍上右側部横に長さ一寸位、深さ一分位切りたるが、幸に家族のものに助けられ生命には差支えなしと。