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◎本縣鰹節の改良と水產組合の革新に就て(下)
原文表記
◎本縣鰹節の改良と水產組合の革新に就て(下) 衣雲漁夫
第一本縣民目下の程度並に漁業の状態より見れは純土佐形に眞似させることは六つかしかろうと思ふのは一体土佐形は魚肉の組織上より言へは不自然的なれども充分手も入れ時間も費やして加工的に出來上るを以て随分面働である成程民度問題を持出は甚だ残念てはあるが仕方かない又本部や慶良間の如き自己の所在地にて漁業を營む處にありては例令大漁に接するも其の家族や近隣の者が出て加勢が出來る處にありては如何か知らぬが其他の多くは出稼漁業者で常に一定數の製造人を有する者計りなれは迚も時間と手間が取る仕事は出來兼る
第二若し土佐形を眞似さするとすれば本縣在の商人を取換へるか若は大阪邊より土佐形の商人を多數引寄せねはならぬ何となれば今日本縣在鰹節商人は多く鹿兒島や宮崎の人で土佐形嫌の商人計であるから吾々生產者は損である之が行はるゝ否やである
第三一体生產者の方より言へば例令價額に於て千切た節が高いとも可成は青節を出した方が得であるして見れば節の仕向地も成可は近い處を選ばねばならぬ卽大阪よりも鹿兒島か良譯になる然るに土佐形節は鹿兒島■ては甚だ賣捌が惡い計でなく鹿兒島は節の集散地として本邦第一と思ふが殊に昨今汽車が全通してからは從來書面を以て各地の商人自ら直接來て取引するやうになりて■から非常に節の賣捌か良いとのことである然らは本縣節は如何しても薩摩形を遠く離れてはならぬ点も亦一の理由である
第四魚の性質上より見ても土佐形は本縣産に不適當のやうである此点は予輩は充分試驗をせぬから断言は出來兼るが予は理窟上より大に感服して居る其は或本縣商人の實驗談だが本縣の鰹は脂肪分が少い爲め最初即ち一番菌二番菌位迄は非常に良いけれども永く保存して置くと焼が來て脆くなる之は脂肪分の少い結果であらうと■はれたし亦某撿査員も同一の觀察をしてる者もある果して然らば常でさい土佐形は角が立て割け易いと嫌ふのに魚の性質上永く保存すれは脆くなる本縣産鰹には土佐形は全然不適當となる
そこで製造敎師も宮崎や鹿児島邊より極く上手の者を聘したい希望を持て居るが敎師の資格を有する者は本縣にも澤山ある併しなから此節形の問題が解決今尚早とすれは仕方ないか何れにしても予の主眼は製造敎師の効果なして今少し大ならしめんとするか故に八名の製造敎師の費用の内より三人位の費用を去て之を二人の巡回敎師に充てたい此の巡回敎師は今迄の敎師の如く或製造所に計り専属せしめす或地方を限り各製造所を巡回せしめて生より仕上則ち荷造運搬迄の順序的統一的教師にしたい勿論此巡回敎師になる人は最も手腕あり經驗ある者を選定するのてある之を配置する地方は本島慶良間に一人先島に一人とすれは充分にいけると思ふ若し出來ないけれは一人でも宜しそして亦八釜敷問題は其の人の選定であるか其は節形問題と伴ふことになるけとも其の任に當り得へき人は敢て内地人限らす本縣人にも適任者はあらうと思ふ
以上は節の改良方法に就ての愚見であるが之より水產組合の革新に就て尙少々愚見を述て見やう一体水產組合設置の目的は鱶鰭鰹節鰑等の如き県外輸出水産製品を撿査し以て製品の改良を計ると同時に需用地の信用を博して販路の擴張を計るのが第一の目的て第二の目的としては此水產組合は當業者の一の機關と爲して水產事業の發達を計るである實に結構な機關である然るに此の如き結構なる目的を有し且つ設立以來三年の星霜を經過して居る組合にして其の目的上の効果か充分擧て居るや否やは予輩の疑問とする所である予輩をして露骨に言はしむれは其の第一の目的たる撿査は製品の改良にあらずして只た撿査料を取るの撿査のやうに亦た第二の目的は營業者の機關にあらずして官廳の機關たるかの如く感せしめて居る何となれは此等製品に對し一旦撿査を行たならば組合は必ず生產者に向て其製品の良否を批判して注意を與へねばならぬ例令は鰹節に就て例して見れは籠立の如何煮熱の程度火當の加減削方の念不念菌の模樣其他手入の如何等に付一々批判を加へて注意すれば生產者は必す其刺撃を受て自然に競争的に製品の優劣に注目するに違ひない又第二の目的を達せしめんには茲に多少水產上の智識を有し且つ當業者の事情にも通する者を選定して組合に専務理事として置く必要があろうと思ふ之は曾て組合設立の頃琉球紙が組合の議員役員は眞の滿子主より出したは素人議員役員にては充分に目的を達し得ないと論評されたものと殆ど同一の意義である是非専務理事を置て貰ひたい■の専務理事は一面に組合の撿査員並に書記等を監督し一面に於ては官廳と營業者間の取次役■■やうとなりて上の意を下に示し下の事情を上に通することになれば本縣水產の發達を計る点に於て尠からざる便宜を得るであらうと思ふ果して専務理事を置くとすれば勿論有給とせんければならぬ事だがそうすると經費問題も出て來る予輩の見る所にては今日組合の經費中には甚だ不必要の費用も大分あるやうにあるから此等を削減したならば二三十圓の専務理事を置くとしても尙ほ四五百圓の餘裕あるを見て居る此説を唱ふ者は予輩計でない今日現に組合に在て仕事をして居る人々にもある
現代仮名遣い表記
●本県鰹節の改良と水産組合の革新に就て(下) 衣雲漁夫
第一、本県民目下の程度ならびに漁業の状態より見れば、純土佐形に真似させることはむつかしかろうと思うのは、一体、土佐形は魚肉の組織上より言へば、不自然的なれども充分手も入れ時間も費やして加工的に出来上るを以て、随分面倒である。なるほど民度問題を持出せば甚だ残念ではあるが、仕方がない。又、本部や慶良間の如き自己の所在地にて漁業を営む処にありては、たとえ大漁に接するも、その家族や近隣の者が出て加勢が出来る処にありては如何が知らぬが、その他の多くは出稼漁業者で常に一定数の製造人を有する者ばかりなれば、とても時間と手間が取る仕事は出来かねる。
第二、もし土佐形を真似させるとすれば本県在の商人を取換えるか、もしくは大阪辺より土佐形の商人を多数引寄せねばならぬ。なぜならば今日、本県在鰹節商人は多く鹿児島や宮崎の人で土佐形嫌の商人ばかりであるから吾々生産者は損である、之が行われるかどうかである。
第三、一体生産者の方より言へば、例え価格に於て千切た節が高いとも可成は青節を出した方が得である。そうして見ると節の仕向地もなるべくは近い処を選ばねばならぬ、即ち大阪よりも鹿児島が良い訳になる。しかるに土佐形節は鹿児島■ては甚だ売捌きが悪いばかりでなく、鹿児島は節の集散地として本邦第一と思うが、とりわけ昨今汽車が全通してからは従来書面を以て各地の商人自ら直接来て取引するようになりて■から非常に節の売捌きが良いとのことである。そうすると本県節は如何しても薩摩形を遠く離れてはならぬ点もまた一つの理由である。
第四、魚の性質上より見ても土佐形は本県産に不適当のようである。この点は予輩は充分試験をせぬから断言は出来かねるが、予は理窟上より大いに感服して居る。それはまた本県商人の実験談だが、本県の鰹は脂肪分が少い為め、最初即ち一番菌、二番菌位迄は非常に良いけれども永く保存して置くと焼が来てもろくなる。之は脂肪分の少い結果であろうと■はれたし、また某検査員も同一の観察をしてる者もある。果してそうであれば常でさえ土佐形は角が立って割け易いと嫌うのに、魚の性質上永く保存すればもろくなる本県産鰹には、土佐形は全然不適当となる。
そこで製造教師も、宮崎や鹿児島辺より極く上手の者を聘したい希望を持って居るが、教師の資格を有する者は本県にも沢山ある。しかしながら、この節形の問題が解決今尚早とすれば仕方ないが、何れにしても予の主眼は、製造教師の効果なして今少し大ならしめんとするか。故に八名の製造教師の費用の内より三人位の費用を去て之を二人の巡回教師に充てたい。此の巡回教師は今迄の教師の如くある製造所にばかり専属せしめず。ある地方を限り、各製造所を巡回せしめて生より仕上げ、すなわち荷造運搬迄の順序的統一的教師にしたい。もちろんこの巡回教師になる人は、最も手腕あり経験ある者を選定するのである。これを配置する地方は本島慶良間に一人、先島に一人とすれば充分にいけると思う。若し出来ないければ一人でも宜し。そしてまたやかましき問題はその人の選定であるが、それは節形問題と伴うことになるけども、その任に当り得べき人はあえて内地人限らず本県人にも適任者はあろうと思う。
以上は節の改良方法に就ての愚見であるが、これより水産組合の革新について尚少々愚見を述べて見よう。一体水産組合設置の目的は、フカヒレ、鰹節、スルメ等の如き県外輸出水産製品を検査し、以て製品の改良を計ると同時に需用地の信用を博して販路の拡張を計るのが第一の目的で、第二の目的としては、この水産組合は当業者の一の機関と為して水産事業の発達を計るである、実に結構な機関である。しかしこの如き結構なる目的を有し且つ設立以来三年の星霜を経過して居る組合にして、その目的上の効果が充分挙がって居るや否やは、予輩の疑問とする所である。予輩をして露骨に言わしむれば、その第一の目的たる検査は製品の改良にあらずして只だ検査料を取るの検査のように、また第二の目的は営業者の機関にあらずして官庁の機関たるかの如く感ぜしめて居る。なぜなら、これら製品に対し一旦検査を行ったならば、組合は必ず生産者に向てその製品の良否を批判して注意を与えねばならぬ。例えば鰹節について例に見ると、籠立の如何、煮熱の程度、火当の加減、削方の念不念、菌の模様、その他手入れの如何、等に付いて一々批判を加えて注意すれば、生産者は必ずその刺撃を受て自然に競争的に製品の優劣に注目するに違いない。また第二の目的を達せしめんには、ここで多少水産上の知識を有し且つ当業者の事情にも通じる者を選定して、組合に専務理事として置く必要があろうと思う。これはかつて組合設立の頃琉球紙が、組合の議員役員は真の満子主より出したい素人議員役員にては充分に目的を達し得ない、と論評されたものとほとんど同一の意義である。是非、専務理事を置て貰いたい■の専務理事は一面に組合の検査員並に書記等を監督し、一面に於ては官庁と営業者間の取次役■■ようとなりて、上の意を下に示し下の事情を上に通ずることになれば、本県水産の発達を計る点に於て少なからざる便宜を得るであろうと思う。果して専務理事を置くとすれば勿論有給としなければならぬ事だが、そうすると経済問題も出て来る。予輩の見る所にては、今日組合の経費中には甚だ不必要の費用も大分あるようにあるから、此等を削減したならば二三十円の専務理事を置くとしても、なお四五百円の余裕あるを見て居る。この説を唱う者は予輩ばかりでない、今日現に組合に在て仕事をして居る人々にもある。