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無人島探訪記(三)
原文表記
無人島探訪紀(三)
南琉タイムス 昭和二十五年五月一日
高 良 鐡 失
四 蚊群の襲擊
夕食をしていると 顔や首をちつくりと刺すものがいる 捕えてみると蚊である 最速空襲がはじまつたとだれかがいう 黄尾島の爆擊かと思つたがそうではなく これはネツタイエイカの襲擊である 音もなく飛んできて靜かに止り 手足等裸出■居ればところかまわず刺す これが實に巧妙でいたくてたまらない 無人島の蚊は食物にかつれていると見える追拂つてもやつてくる 今正に人間と蚊が二坪の幕舎の中で生存競爭が展開されている さてこれが幾日續くだろうかと思うと氣になる 無人島で蚊に殺されたのではたまらない
アフリカ未開地に於けるねむり病媒介者ツエツエ蠅のことが頭にういてくる 打ち落されても次々と增強してくる 無人島のネツタイイエカは實に執急深い 生温い防除では間に合わない 最後の手を打つことにして硫香燻煙をはじめる漸く退散せしめたが床に就くと再び衝撃がはじまつてくる 一部のものは既に蚊帳の中に進入している 無人島の夜は磯に碎ける波の音と蚊の衝擊に更けて安眠が出來ない そこで夜半に波打際に出たがそれでも又追いついてくる靑空をながめ海をながめ輝く星と大波の音にうたれ寂寞を感じつゝ睡眠不足のまゝに夜を明かしたこの島にいる限り蚊の襲擊はのがれることが出來ない
五 海の寶
三月廿九日早朝から海の方が特別騷がしい びつくりして幕舎を出て見ると 二隻の漁船がカジキの群れを追いまくつている 海岸から二百米程しか離れていない 相變らず波は荒い 船は上がつたり 下がつたりひどく搖れている 突き台の上にたつている四人の漁師の槍は今まさにカジキを突き刺そうとしているが船がひどく搖れるので見當がつかないらしい カジキは必死になつて逃げようとしている 時々そんな大きな中体が空に跳り出るその光景は正に手に汗握る痛快事といえまさにあつという間に槍は投げられ カジキにぐさ■と突き刺さる 早速うきが流され 船は全速力で次のカジキを■■掛けて行く 他方約四百米のところでは人間と海洋鳥と魚の生存競爭が演ぜられている 雑魚を追う海洋鳥と鰹の群鰹やカジキを追う漁船群 無數の海洋鳥と魚群と八隻の漁船との間に食うか食われるかの一大決戰場が展開されて居り この魚釣島でなくては見られない 一大繪巻といえようれ船の中に投げ込まる銀白色の鰹 えつ さえつ さと引上げられる カジキ 海亀 等凱歌は漁船にあがる
現代仮名遣い表記
無人島探訪紀(三)
南琉タイムス 昭和二十五年五月一日
高 良 鉄 失
四 蚊群の襲撃
夕食をしていると、顔や首をちっくりと刺すものがいる。捕えてみると蚊である。最速空襲がはじまったとだれかがいう。黄尾島の爆撃かと思ったがそうではなく、これはネッタイイエカの襲撃である。音もなく飛んできて静かに止り、手足等裸出■居ればところかまわず刺す。これが実に巧妙でいたくてたまらない。無人島の蚊は食物にかつれていると見える。追払ってもやってくる。今正に人間と蚊が二坪の幕舎の中で生存競争が展開されている。さてこれが幾日続くだろうかと思うと気になる。無人島で蚊に殺されたのではたまらない。
アフリカ未開地に於けるねむり病媒介者ツエツエ蝿のことが頭にういてくる。打ち落されても次々と増強してくる。無人島のネッタイイエカは実に執念深い。生温い防除では間に合わない。最後の手を打つことにして硫香燻煙をはじめる。漸く退散せしめたが床に就くと再び衝撃がはじまってくる。一部のものは既に蚊帳の中に進入している。無人島の夜は磯に砕ける波の音と蚊の衝撃に更けて安眠が出来ない。そこで夜半に波打際に出たがそれでも又追いついてくる。青空をながめ海をながめ、輝く星と大波の音にうたれ寂寞を感じつゝ、睡眠不足のまゝに夜を明かした。この島にいる限り蚊の襲撃はのがれることが出来ない。
五 海の宝
三月二十九日早朝から海の方が特別騒がしい。びっくりして幕舎を出て見ると、二隻の漁船がカジキの群れを追いまくっている。海岸から二百米程しか離れていない。相変らず波は荒い。船は上がったり下がったりひどく揺れている。突き台の上にたっている四人の漁師の槍は今まさにカジキを突き刺そうとしているが、船がひどく揺れるので見当がつかないらしい。カジキは必死になって逃げようとしている。時々そんな大きな中体が空に跳り出るその光景は正に手に汗握る痛快事といえ、まさにあっという間に槍は投げられ、カジキにぐさ■と突き刺さる。早速うきが流され 船は全速力で次のカジキを■■掛けて行く。他方約四百米のところでは人間と海洋鳥と魚の生存競争が演ぜられている。雑魚を追う海洋鳥と鰹の群、鰹やカジキを追う漁船群、無数の海洋鳥と魚群と八隻の漁船との間に食うか食われるかの一大決戦場が展開されて居り、この魚釣島でなくては見られない一大絵巻といえよう。れ船の中に投げ込まる銀白色の鰹 えっさえっさと引上げられる。カジキ、海亀、等凱歌は漁船にあがる。