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尖閣列島概説【五】

掲載年月日:1939/7/17(月) 昭和14年
メディア:海南時報社 1面 種別:記事

原文表記

尖閣列島概説【五】
海南時報 昭和十四年七月十七日

   石垣島測候所 正木 任
大正島
大正島は赤尾嶼 久米赤島 爾勤里岩等と言ふ別名がある 同島は東經一二四度三十四分 北韋二五度五十四分に位し高さ八十四米で周圍及び面積は正確に測量せるものがない様である 周圍一〇九米となつて居る様だが實際は二百米位ある様だ
同島は全島岩嶼で絶壁である爲め上陸は非常に困難であり海拔二十米位まではワイヤ等で攀登れるけれども頂上へは一寸と登れぬ同島では一時間半であつた生物として昆蟲は全く見當らない海鳥類には 一クロアジサシ 二セグロアジサシ 三リウキウカツヲドリ 四カモメ等である 其他にヨシゴヒ リウキウアカセウビン イソツバメが居る 滿干線の岩にはフヂツボが澤山居る
島が小さいので變わつたものは見當らなかつたが リウキウアカセウビンが棲息して居るのは興味ある問題である
六月三日 午後七時頃同島出發 六月四日十一時鳩間島に着き三時間程鳩間調査して四日十一時鳩間島に着き三時間程鳩間調査して同島午後出發して四日午後七時頃石垣町棧橋に無事着いた 鳩間の生物に就いては再び調査の上後日にしたい 
 史的記述
尖閣列島は昔から無人島だつたらしい 歴史的には古くは遺唐使が那覇 久米島 大正島魚釣島 福州への航路で尖閣列島各小島が目標とせられた様である 其の後明治十七年以降 古賀氏が魚釣島を基地となして各小島に事業を開始された様である明治三十九年頃には北小島の海鳥を捕獲し剝製にして米國へ多量の輪出等なされた様である 明治以前の同列島に就いての記録がない現在では同列島附近は漁場として臺灣蘇澳方面を出漁する様である 
  結 語
以上 尖閣列島に關する概説を試みたのであるが 生物部門に付いて採集物を専門家に於いて調査を御願ひしてあります他日詳細を報告したい 要するに尖閣列島の自然界は興味の中心が動物界にあり鳥類 爬虫類 陸産貝類及昆蟲類について分布上の比較研究するにあると思はれる
就中 昆蟲類の非飛翔性「カタザウ」は生物地理學上 ウオレス線北端の延長を物語り學界に興味ある問題を投げかけてゐる 同列島は人爲的の攪亂を蒙らないその他生物學的に興味多き問題が幾多もあることは嬉しいことであるが 便船がないだけ殘念である
終りに臨み各小島に愉快な原始生活苦樂を共にされし一行に對し再び繰り返し深く感謝の意を表して禿筆を擱くことにする
 終り

現代仮名遣い表記

尖閣列島概説【五】
海南時報 昭和十四年七月十七日

   石垣島測候所 正木 任
大正島
大正島は赤尾嶼、久米赤島、爾勤里岩等と言う別名がある。同島は東経一二四度三十四分、北緯二五度五十四分に位し、高さ八十四米で周囲及び面積は正確に測量せるものがない様である。周囲一〇九米となって居る様だが実際は二百米位ある様だ。
同島は全島岩嶼で絶壁である為め上陸は非常に困難であり、海抜二十米位まではワイヤ等で攀登れるけれども頂上へは一寸と登れぬ。同島では一時間半であった。生物として昆虫は全く見当らない。海鳥類には、一クロアジサシ、二セグロアジサシ、三リュウキュウカツオドリ、四カモメ等である。其他にヨシゴイ、リュウキュウアカショウビン、イソツバメが居る。満干線の岩にはフジツボが沢山居る。
島が小さいので変わったものは見当らなかったが、リュウキュウアカショウビンが棲息して居るのは興味ある問題である。
六月三日、午後七時頃同島出発。六月四日十一時鳩間島に着き三時間程鳩間調査して、同島午後出発して、四日午後七時頃石垣町桟橋に無事着いた。 鳩間の生物に就いては再び調査の上後日にしたい。 
 史的記述
尖閣列島は昔から無人島だったらしい。歴史的には古くは遺唐使が那覇、 久米島、大正島、魚釣島、福州への航路で尖閣列島各小島が目標とせられた様である。其の後明治十七年以降、古賀氏が魚釣島を基地となして各小島に事業を開始された様である。明治三十九年頃には北小島の海鳥を捕獲し剝製にして米国へ多量の輪出等なされた様である。明治以前の同列島に就いての記録がない現在では、同列島附近は漁場として台湾蘇澳方面を出漁する様である。
  結 語
以上、尖閣列島に関する概説を試みたのであるが、生物部門に付いて採集物を専門家に於いて調査を御願いしてあります、他日詳細を報告したい。 要するに尖閣列島の自然界は興味の中心が動物界にあり、鳥類、爬虫類、 陸産貝類及昆虫類について、分布上の比較研究するにあると思われる。
就中、昆虫類の非飛翔性「カタザウ」は生物地理学上、ウオレス線北端の延長を物語り、学界に興味ある問題を投げかけている。同列島は人為的の攪乱を蒙らないその他生物学的に興味多き問題が幾多もあることは嬉しいことであるが、便船がないだけ残念である。
終りに臨み各小島に愉快な原始生活苦楽を共にされし一行に対し、再び繰り返し深く感謝の意を表して禿筆を置くことにする。
 終り