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[古賀辰四郞の吉報に接し 緣堂]

掲載年月日:1910/1/14(金) 明治43年
メディア:琉球新報社 1面 種別:記事

原文表記

古賀辰四朗君此の度藍綬褒章授けられたる吉報に接し余は友人として深く君の光榮を慶す君が尖閣列島を經營するの初に當りてや人多く之れを危み甚しきは竊に指笑するものありしを知る絶海無人の孤嶋其業たる實に容易ならず報酬を厚くして漸く勞働者を得汽船を賃してからうじて食料を供給し新に岩礁を碎て舟の碇泊場を設け或は藷菜を裁て不時の用意に供ふる等の困難に加ふるに鳥毛の採集より鳥類の剥製に變じ貝類の漁撈は鰹船の製造となり事業の曲折又た苦心の尠からざりしを見るに足る今は經營其の緒に付き更に一大利源の發見ありて大發展の域に達せんとし漸く人に羨望せらるゝに至れるも君の如き熱心精力人に超越したるものなきに非は終始一貫此の孤嶋を玉化せしむるに堪えしや否俄に期すべからず此の如き苦境を經て茲に成功の一端を國家に認められたる君の喜余は遙察に余りあるを知る
今にして人もうらやむ浦島か このよろこひにあへる君かな
君か書ける未來の金殿玉樓は乙姫の昔語りに非ず必ず現實すべきを信じ且つ國家の爲に之を訴るもの也    緣 堂

現代仮名遣い表記

古賀辰四郎君、此の度藍綬褒章授けられたる吉報に接し、余は友人として深く君の光栄を慶す君が、尖閣列島を経営するの初に当りてや、人多く之れを危み、甚しきは窃に指笑するものありしを知る。絶海無人の孤嶋、其業たる実に容易ならず。報酬を厚くして漸く労働者を得汽船を賃して、かろうじて食料を供給し、新に岩礁を碎て、舟の碇泊場を設け或は、藷菜を裁て、不時の用意に供うる等の困難に加うるに、鳥毛の採集より鳥類の剥製に変じ、貝類の漁労は鰹船の製造となり、事業の曲折又た苦心の尠からざりしを見るに足る。今は経営其の緒に付き、更に一大利源の発見ありて、大発展の域に達せんとし、漸く人に羨望せらるるに至れるも、君の如き、熱心精力人に超越したるものなきに非は、終始一貫此の孤嶋を玉化せしむるに堪えしや、否俄に期すべからず。此の如き苦境を経て、茲に成功の一端を国家に認められたる、君の喜余は遥察に余りあるを知る。
今にして、人もうらやむ浦島か、このよろこびにあえる君かな
君か書ける未来の金殿玉楼は、乙姫の昔語りに非ず、必ず現実すべきを信じ、且つ国家の為に之を訴るもの也。    緑 堂