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●琉球群島に於ける古賀氏の功績(其四)

掲載年月日:1910/1/6(木) 明治43年
メディア:沖縄毎日新聞社 2面 種別:記事

原文表記

●琉球群島に於ける古賀氏の功績(其四)
明治十七年以來古賀氏が尖閣列島に對する經營方針は単に年々或時季に際して店員及び出稼勞働者を派遣し鳥毛魚介の採集を爲すのみなりしが同二十九年九月に至り初めて尖閣列島開拓の許可を得たるを以て氏は直ちに同島に對する經營方針を確立せり
▲改良遠洋漁業船の建造
開拓認可後氏は先づ永遠の基礎を定めんが爲めに同島に永住者を送り茲に植民的經營の畫策をなせり然れども當時本縣下一般に用いられたる船舶は脆弱なる琉球形帆船或は小舟のみにして到底遠洋漁業の用に堪へざるのみならず無人島經營の交通機關としては甚だ危險なるを以て此の事を决行するに先ち豫め大阪商船會社に依囑して二艘の改良遠洋漁業船を建造し明治三十年其の落成するを竣ちて先づ之を八重山に送り同年三月始めて同島より出稼移民三十五名と糧食其の他一切の日用品を積載し尖閣列島へ向け出帆せしめたるか幸にして天候平穏何等の故障もなく往復二十餘日を費して同島より探集の貨物を移載して無事歸還し更に同年四月糧食其の他を積込みて派遣し翌三十一年五月結果頗る良好なるの報知を來せしを以て次回は大阪商船會社と恊商し同會社の所有汽船須摩丸(千六百餘噸)を借入れ氏自ら移民五十名を引率し糧食日用器其各種の材料等を準備して首途に就けり
▲永住的準備
同氏今回の渡航は同島に移民計畫の基礎を確立せんとの希望なりしが故に暫時島内に滯留することゝし先づ是等移民に家屋を與へんが爲め建築に着手し井を掘鑿し原野を拓き甘藷野菜の類を栽する等專ら航海杜絶不時の災厄に備ふる設備を整へて先づ本店に歸れり
▲交通不便及荷役の困難
斯の如く各種の事業進行するに連れて最も困難を感ぜしめしは同島に於ける荷役の不便、航海の不自由にして同島經營の半ばは是等の障碍の爲めに其の進渉を妨げられたり
抑も尖閣列島の地形たるや海洋孤懸の島嶼にして断崖四壁繞らし天候少しく不穏なれば澎湃たる怒濤其の壁を打ち絕■て港らしきものなきのみならず洋中遠く岩礁相連なり瀬を打つ浪は高く黒潮常に急駿の速度を以て流るるが故に舟を寄するに困難を極め千六百餘噸の汽船須摩丸の如きは到底海岸に近づき得ざる故に遠く海洋の間に投錨し物資の陸揚積込をなさざるを得ざるが故に本船は左右上下に動搖し小舟は掀飜せられて其の仕事を爲すこと能はず爲に覆沒の難に遭ふ事一再ならず一物一貨として危險を冒さゞるは無く其の經營に要する材料及び糧食等を輸送するの困難心痛は實に言語の外にありといふ

現代仮名遣い表記

●琉球群島に於ける古賀氏の功績(其四)
 明治十七年以来、古賀氏が尖閣列島に対する経営方針は、単に年々或時季に際して、店員及び出稼労働者を派遣し、鳥毛魚介の採集を為すのみなりしが、同二十九年九月に至り、初めて尖閣列島開拓の許可を得たるを以て、氏は直ちに同島に対する経営方針を確立せり
▲改良遠洋漁業船の建造
 開拓認可後、氏は先づ永遠の基礎を定めんが為めに、同島に永住者を送り、茲に植民的経営の画策をなせり。然れども、当時本県下一般に用いられたる船舶は脆弱なる。琉球形帆船或は小舟のみにして、到底遠洋漁業の用に堪へざるのみならず、無人島経営の交通機関としては甚だ危険なるを以て、此の事を決行するに先ち予め。大阪商船会社に依嘱して二艘の改良遠洋漁業船を建造し、明治三十年其の落成するを竣ちて、先づ之を八重山に送り同年三月、始めて同島より出稼移民三十五名と糧食其の他、一切の日用品を積載し尖閣列島へ向け、出帆せしめたるか幸にして。天候平穏何等の故障もなく、往復二十余日を費して、同島より探集の貨物を移載して、無事帰還し、更に同年四月糧食其の他を積込みて派遣し、翌三十一年五月結果頗る良好なるの報知を来せしを以て、次回は大阪商船会社と協商し同会社の所有汽船、須摩丸(千六百余頓)を借入れ、氏自ら移民五十名を引率し糧食日用器、其各種の材料等を準備して首途に就けり。
▲永住的準備
 同氏今回の渡航は同島に、移民計画の基礎を確立せんとの希望なりしが故に、暫時島内に滞留することとし、先づ是等移民に家屋を与へんが為め、建築に着手し井を掘鑿し原野を拓き、甘藷野菜の類を栽培する、等専ら航海社絶不時の災厄に備うる設備を整えて、先づ本店に帰れり。
▲交通不便及荷役の困難
 斯の如く、各種の事業進行するに連れて、最も困難を咸ぜしめしは、同島に於ける荷役の不便、航海の不自由にして同島経営の半ばは、是等の障得の為めに、其の進渉を妨げられたり、
抑も尖閣列島の地形たるや、海洋孤懸の島嶼にして、断崖四壁続らし、天候少しく不穏なれば澎湃たる怒濤。其の壁を打ち絶■て、港らしきものなきのみならず、洋中遠く岩礁相連なり、瀬を打つ浪は高く、黒潮常に急駿の速度を以て流るるが故に、舟を寄するに困難を極め、千六百余噸の汽船須摩丸の如きは、到底海岸に近づき得ざる故に遠く、海洋の間に投錨し物資の陸揚積込をなさざるを、得ざるが故に本船は左右上下に動揺し、小舟は掀翻せられて、其の仕事を為すこと能はず為に、覆没の難に遭ふ事一再ならず。一物一貨として危険を冒さざるは無く。其の経営に要する材料及び、糧食等を輸送するの困難、心痛は実に言語の外にありという。