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八重山の開發問題
原文表記
八重山の開發問題
本縣行政區劃百三拾六方里中八重山郡は其の約三分の一を占む、之れが開發に就ては縣經濟上のみならず、國家公益の爲め尠少ならぬ關係を有せり、■中には古賀氏の經營に属する尖閣列島の如きあり、蕞爾たる島嶼を以てして年々優に拾數萬圓の利益を供し今後益々發展の見込あり、經營の當人古賀氏は爲めに其の功により藍綬褒章を賜へり、其他仝郡一巡したるもの皆な悉く開拓すべき利益の豊なるを言はざるものなし、一般の視線斯く仝郡に注て未着手に至らざるもの、蓋し其の地方特有の病氣あり、憂患を爲すと他は其の地位の餘りに僻在せるが故ならずと云ふことなし、
然るが故に曩きに臨時縣會に於ては地方病撲滅の目的を有する提案の建議あり、縣當局は之を容れて(明治)四十三年度豫算中其の計劃を示せり斯くて縣會は更にヨリ善き方法に修正して通過せしめたり、先つ以て病患撲滅の方法は立てられたりと見て可ならむ、然り而て第二の原因たる地方僻在に就ては縣會の最終末日を以て仝郡選出議員なる大濱氏により提議されたる建議案により漸やく之れが缺陷■補はれんとせり、即ち八重山郡内に本縣農事試驗場分場を設けて農事の普及を企圖せんとすること是なり
吾人は前者に就ては熱心なる賛成者たると仝時に後者即ち農事試驗場分場に就ても又た熱心なる賛成者の一人なりとす、而して其の理由とする所は此の分場の設置によりて、本縣管内総面積の約三分の一に値する地方開拓の動機を速め、更らに仝地方より收益すべき條件の多くを發見するを期待するに耐へたるを以てなりとす
尤とも八重山郡内には單に農圃に適當するのみならさるなし、山林も大面積を有せり而かも大部分は官有に属せる外地勢は拾七群嶋に分たれたる等不利益の條件なきに非ざるも、是等の不利なる條件は各地方至る處にあり、仝郡に縣費の幾分を注入する■否定すべき理由の一なること能はざるのみならず、既に上説せる如く、仝郡が事業化垂涎の地點たる萬人俱瞻の中にあるに拘はらず、未だ一回も經驗せられたることなき遺棄せられたる沃野たるに於ては縣は之れに對して豫備的事業を試み事業化として向かふ所を知らしむるの必要最とも痛切なりと云はざるべからず、是れ歐米各國新開の地■先づ採用せられつゝある當世の最とも賢く、而かも經濟的なる事業たるに於て、移して以て之を萬代不毛の仝郡内に施すは結構のことたらずや
以上は八重山利益開拓の方面農事に關し立言したるのみ此の地にも尚ほ海産等有利なるは論を竣たず、若し之を縣一般の公益上より云ふも、本嶋地方の如き充分開拓せられたる地方にのみ農學の試驗を施さんより八重山の如き餘裕ある地方に大計劃の事業を試み、更らに一轉しては之を宮古郡の如き八重山と仝様に有様にある地方利益の開拓に資することを得ば一擧にして両得たるのみならず本嶋地方又た其の研究の惠に浴し彼の熱帯動植物の如き珍重利源を得るに至るを疑はず、之れ軈ては一擧三徳の妙あり縣全般の利益を進むること多大なるものなくんばあらざるべし
要するに八重山問題は縣經濟上より云ふ時は本縣下三分の一に値する利益圏の問題にして又遺利を有利たらしむる點より云ふ時は國家の利益を進る所以ならざるべからず況んや其の低廉なる地價と開放せられたる天然の遺利と有用して農學の試驗をなして新進事業を進むるは縣下全般の利益問題たるざるべからず、人によりては本縣農學試驗場從來の經過餘りに面白からざるを理由として之を否定せんとするものあるやに聞くと雖も、之れ恐らくは僻論なるべし其の故如何となれば本嶋試驗場の不成績は則ち八重山分場の益々必要缺くべからざるを証することゝもなるべければ也、吾人は本事業の爲め縣費の幾分を割き相當勞力を與ふるを客む所以を見出すこと能ざる也、
現代仮名遣い表記
八重山の開発問題
本県行政区画、百三十六方里中八重山郡は、其の約三分の一を占む。之れが開発に就ては、県経済上のみならず、国家公益の為め、尠少ならぬ関係を有せり。■中には古賀氏の経営に属する、尖閣列島の如きあり。蕞爾たる島嶼を以てして、年々、優に拾数万円の利益を供し、今後益々初展の見込あり。経営の当人古賀氏は、為めに其の功により、藍綬褒章を賜へり、其他仝郡一巡したるもの皆な、悉く開拓すべき利益の豊なるを言はざるものなし。一般の視線斯く同郡に注て、未着手に至らざるもの、蓋し其の地方特有の病気あり。憂患を為すと、他は其の地位の余りに、僻在せるが故ならずと云うことなし。
然るが故に、曩きに臨時県会に於ては、地方病撲滅の目的を有する、提案の建議あり。県当局は之を容れて、(明治)四十三年度予算中、其の計画を示せり斯くて、県会は更により善き方法に修正して、通過せしめたり。先つ以て、病患撲滅の方法は立てられたりと見て、可ならむ。然り而て第二の原因たる地方僻在に就ては、県会の最終末日を以て、仝郡選出議員なる大浜氏により、提議されたる建議案により、漸やく之れが、欠陷■補はれんとせり。即ち、八重山郡内に本県農事試験場分場を設けて、農事の普及を企図せんとすること是なり。
吾人は、前者に就ては、熱心なる賛成者たると同時に、後者即ち、農事試験場分場に就ても又た、熱心なる賛成者の一人なりとす。而して其の理由とする所は、此の分場の設置によりて、本県管内総面積の約三分の一に値する、地方開拓の動機を速め、更らに同地方より、収益すべき條件の多くを、発見するを期待するに耐へたるを以てなりとす。
もっとも、八重山郡内には、単に農圃に適当するのみならさるなし、山林も大面積を有せり、而かも大部分は官有に属せる外地勢は、十七群嶋に分たれたる、等不利益の条件なきに非ざるも、是等の不利なる条件は、各地方至る処にあり。仝郡に県費の幾分を注入する■否定すべき理由の一なること、能はざるのみならず、既に上説せる如く、仝郡が事業化垂涎の地点たる、万人俱瞻の中にあるに拘はらず、未だ一回も経験せられたることなき、遺棄せられたる沃野たるに於ては、県は之れに対して、予備的事業を試み、事業化として向かう所を知らしむるの、必要最とも痛切なりと云はざるべからず。是れ欧米各国新開の、地■先づ採用せられつつある当世の、最とも賢く、而かも経済的なる事業たるに於て、移して以て之を、万代不毛の仝郡内に施すは、結構のことたらずや。
以上は、八重山利益開拓の方面農事に関し、立言したるのみ。此の地にも尚ほ、海産等有利なるは論を竣たず、若し之を、県一般の公益上より云うも、本嶋地方の如き、充分開拓せられたる地方にのみ、農学の試験を施さんより。八重山の如き余裕ある地方に、大計画の事業を試み、更らに一転しては之を、宮古郡の如き八重山と仝様に有様にある。地方利益の開拓に資することを得ば一挙にして、両得たるのみならず、本嶋地方又た其の研究の恵に浴し、彼の熱帯動植物の如き、珍重利源を得るに至るを疑はず。之れ軈ては、一挙三徳の妙あり、県般の利益を進むること、多大なるものなくんばあらざるべし。
要するに、八重山問題は県経済上より云う時は、本県下三分の一に値する利益圏の問題にして、又遺利を有利たらしむる点より云う時は、国家の利益を進る所以ならざるべからず。況んや其の低廉なる地価と、開放せられたる天然の遺利と有用して、農学の試験をなして新進事業を進むるは、県下全般の利益問題たるざるべからず。人によりては、本県農学試験場從来の経過余りに、面白からざるを理由として、之を否定せんとするものあるやに聞くと雖も、之れ恐らくは僻論なるべし。其の故如何となれば、本嶋試験場の不成績は、則ち八重山分場の、益々必要欠くべからざるを、証することともなるべければ也。吾人は、本事業の為め、県費の幾分を割き、相当労力を与うるを客む所、以を見出すこと能ざる也。