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西澤島の近狀
原文表記
西澤島の近狀
琉球新報 明治四十二年七月十九日
此程西澤島より内地へ歸來せる某氏の談に島中には未だ著るしき變動なし本年三月一日のことなりき突然淸國軍艦飛鷹號同島に來港したれば從來の例に傚ひ直に同島に日本國旗を掲げ日本の所属島たることを表明したるに軈て副艦長と稱する黄某は水夫長一名英國人一名を率ゐて上陸し來りたり依つて西澤氏の代表者は其來意を尋ねたるに副艦長は何氣なく廣東より麻尼拉に向け航行の途次通過し上陸せし者なりと答へ島内の模様を視察し約一時間位にて歸艦間もなく拔錨したり然るに越へて同月十日右飛鷹號は巡洋艦海容號を率ゐて來航し文官二名商人體の者二名通譯一名外に■洋人三名上陸し内淸國人五名は打揃うて嶋の事務所を訪ひ兩廣總督の命を承け本島視察員として派遣せられたる旨を告げたるに就き事務長淺沼彦之丞出でゝ面接したるに開口一番本嶋の事業は何人の經營にして何慮より許可を受けしや支配人は何人なるやを問ふ淺沼氏曰く經營者は本國に居り支店は基隆に在り支配人は同所■在住吾々事務員は何事も承知せざれば基隆に行き質問せらるべしと答へしに更に此事業は日本政府の許可なるか將た臺灣總督府の許可なるかと問ふ淺沼氏は其手續きは一向知らず昨年六月十四日臺灣總督府より技師六名を派遣し島内及ひ専務の模様を視察の上歸られし事ありと答へたる■然らば本は日本政府の版■と思ふか將淸國属島と思ひ居るかと問ふ是れ亦一向知らねと明治四十年八月此■事業を始めたり併し其の五六年前より種々準備せしと答へ其の他本島には一つの神社ありし筈なるがいかにせしや事業の性質及び經營の模様如何等を質問して歸艦し翌日端艦を歸し島の周圍を視察し午後拔錨したり此の間西洋人は携■し來りし寫眞機にて島内を撮影し行きたり其の後本船出帆までは異狀なきを以て事務員は豫定通り事業を經營しつゝあり出稼人は目下邦人百五六十人臺灣在留支那人四十人許りにて皆相應に貯金を有し多きは五六百圓少きも三百圓以上を所持し居れり今此の中邦人四十人許り基隆まで引揚げたれば在留者は邦人百十人許り臺灣及び福州人四十人に過ぎす同嶋の事業は益有望にして■在の有様に依るも無人嶋の燐礦石のみにて一箇年十八萬圓其の他釦用貝類、龜甲、海草、魚類多く副産物の收獲を加ふれば年々三四十萬圓は優に收獲あるを疑はず頗る有望の嶋嶼にして澎湖嶋などの此にあらず云々
現代仮名遣い表記
西澤島の近状
琉球新報 明治四十二年七月十九日
此程西澤島より内地へ帰来せる某氏の談に、島中には未だ著るしき変動なし。本年三月一日のことなりき、突然清国軍艦飛鷹号同島に来港したれば、従来の例に倣い直に同島に日本国旗を掲げ日本の所属島たることを表明したるに軈て、副艦長と称する黄某は、水夫長一名、英国人一名を率いて上陸し来りたり。依って西澤氏の代表者は其来意を尋ねたるに、副艦長は何気なく広東より麻尼拉に向け航行の途次通過し上陸せし者なりと答え、島内の模様を視察し、約一時間位にて帰艦間もなく抜錨したり。然るに越えて同月十日、右飛鷹号は巡洋艦海容号を率いて来航し、文官二名、商人体の者二名、通訳一名、外に■洋人三名上陸し、内清国人五名は打揃うて島の事務所を訪い、両廣総督の命を承け本島視察員として派遣せられたる旨を告げたるに就き、事務長淺沼彦之丞出でて面接したるに、開口一番本島の事業は何人の経営にして何処より許可を受けしや、支配人は何人なるやを問う。淺沼氏曰く、経営者は本国に居り、支店は基隆に在り。支配人は同所■在住、吾々事務員は何事も承知せざれば、基隆に行き質問せらるべしと答えしに、更に此事業は日本政府の許可なるか、将た台湾総督府の許可なるかと問う。淺沼氏は其手続きは一向知らず、昨年六月十四日台湾総督府より技師六名を派遣し、島内及び専務の模様を視察の上帰られし事ありと答えたる■。然らば本は日本政府の版■と思うか将清国属島と思い居るかと問う。是れ亦一向知らねど明治四十年八月此■事業を始めたり。併し其の五、六年前より種々準備せしを答え、其の他本島には一つの神社ありし筈なるが、いかにせしや事業の性質及び経営の模様如何等を質問して帰艦し、翌日端艦を帰し島の周囲を視察し、午後抜錨したり。此の間西洋人は携■し来りし写真機にて島内を撮影し行きたり。其の後本船出帆までに異状なきを以て、事務員は予定通り事業を経営しつゝあり。出稼人は目下邦人百五、六十人、台湾在留支那人四十人許りにて、皆相応に貯金を有し、多きは五、六百円、少きも三百円以上を所持し居れり。今此の中邦人四十人許り基隆まで引揚げたれば、在留者は邦人百十人許り、台湾及び福州人四十人に過ぎず。同島の事業は益有望にして■在の有様に依るも、無人島の燐鉱石のみにて一箇年十八万円、其の他釦用貝類、亀甲、海草、魚類多く副産物の収獲を加うれば年々三、四十万円は優に収獲あるを疑わず。頗る有望の島嶼にして澎湖島などの比にあらず云々。