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西澤島問題
原文表記
西澤島問題
琉球新報 明治四十二年四月十三日
大嶋民政長官談片
東沙嶋は蕞爾たる一小島のみ而も其所属問題の一懸案となり近く國際問題とさへ惹起さんとするが如き形勢を呈し來れるは稍や注意すべきことに属せり去り乍ら予を以て之を觀るに此蕞爾たる小嶋を捉へ來りて囂々論爭するが如きは事稍や大袈裟に過ぎ大國民の襟度とも覺えざるなり况や其交渉なるものが只單に廣東總督より我領事に抗議を申込みたりと云ふに止まり北京政府と當局者との間には未だ何等公然の交渉を開始したることなきをや之を帝國の領土と可べきか將た淸國の所属とすべきかは事自ら別問題に属せるも世上稍もすれば我總督府が西澤吉治なるものに開拓の特權を與へて該島を臺灣總督府の所轄内に加へたるものゝ如く云爲するものあるは之れ事實の眞相を知らさるの甚だしきものにして有體に言へば西澤は唯一箇の私人として何等の許可もなく此無人島に事業を開始したるものにして我臺灣總督府に於ては徹頭徹尾無人嶋なりと信じて諸般の便宜を與へたるのみに過ぎざるなり▲想ふに此邊海の一小土西澤の事業開始前に或は對岸淸民の時々來りて漁猟を爲せし等の絶無を保し難かるべきも此事を以て直に該島を淸國の領土と爲すの斷案を下し得ざるは勿論西澤の事業開始以來巳に久しき日干を閲したるものあるに拘らず其の今日に至るまで何等の故障を申出でざりし廣東總督の擧動も怪しまざるを得ず▲之を要するに該問題は世間の風説に上れるが如き重大問題にあらずして今後の成行如何に依り國際問題たるに至るが如き事ありとするも直に解決せらるゝに至るべく此上の紛紜錯綜を來すことなかるべし▲該嶋の價値に至りては蕞爾たる一小嶋に過ぎざるも唯一の産物たる燐鑛石は豊富にして昨今九州方面に非常に歡迎せられつゝあれば徒に邊海の孤嶋として冷眼看過すべきにあらざるは勿論西澤氏の如き殆ど全力を盡して該嶋の開拓に資金を注入したる關係もあれば假に該島にして淸國の領土に歸属すべき者なりとするも之が開拓者たる西澤に對し相當の賠償を爲すの義務あるや勿論なり
現代仮名遣い表記
西澤島問題
琉球新報 明治四十二年四月十三日
大島民政長官談片
東沙島は蕞爾たる一小島のみ。而も其所属問題の一懸案となり、近く国際問題とさえ惹起さんとするが如き形勢を呈し来れるは、稍や注意すべきことに属せり。去り乍ら予を以て之を観るに、此蕞爾たる小島を捉え来りて囂々論争するが如きは事稍や大袈裟に過ぎ、大国民の襟度とも覚えざるなり。況や其交渉なるものが只単に広東総督より我領事に抗議を申込みたりと言うに止まり、北京政府と当局者との間には未だ何等公然の交渉を開始したることなきをや。之を帝国の領土と可べきか将た清国の所属とすべきかは事自ら別問題に属せるも、世上稍もすれば我総督府が西澤吉治なるものに開拓の特権を与えて該島を台湾総督府の所轄内に加えたるものゝ如く云為するものあるは、之れ事実の真相を知らざるの甚だしきものにして、有体に言えば西澤は唯一箇の私人として何等の許可もなく此無人島に事業を開始したるものにして、我台湾総督府に於ては徹頭徹尾無人島なりと信じて諸般の便宜を与えたるのみに過ぎざるなり。▲想うに此辺海の一小土西澤の事業開始前に或は対岸清民の時々来りて漁猟を為せし等の絶無を保し難かるべきも、此事を以て直に該島を清国の領土と為すの断案を下し得ざるは勿論、西澤の事業開始以来巳に久しき日子を関したるものあるに拘らず、其の今日に至るまで何等の故障を申出でざりし広東総督の挙動も怪しまざるを得ず。▲之を要するに該問題は世間の風説に上れるが如き重大問題にあらずして、今後の成行如何に依り国際問題たるに至るが如き事ありとするも、直に解決せらるゝに至るべく此上の紛紜錯綜を来すことなかるべし。▲該島の価値に至りては蕞爾たる一小島に過ぎざるも、唯一の産物たる燐鉱石は豊富にして昨今九州方面に非常に歓迎せられつゝあれば、徒に辺海の孤島として冷眼看過すべきにあらざるは勿論、西澤氏の如き殆ど全力を尽して該島の開拓に資金を注入したる関係もあれば、仮に該島にして清国の領土に帰属すべき者なりとするも、之が開拓者たる西澤に対し相当の賠償を為すの義務あるや勿論なり。