キーワード検索

八重山群島(十二)

掲載年月日:1905/8/25(金) 明治38年
メディア:琉球新報社 3面 種別:記事

原文表記

八重山群島(十二)
     琉球新報 明治三十八年八月二十五日

水 産(續)
▲重要海産物の概要
九、(海龜) に三種ある其一を水龜と云ひ一を赤龜と云ひ一をガラス龜と云ふ其内水龜最も多く赤龜之に亞ぎガラス龜最も少くして且つ小なり水龜及赤龜の最大なるものは概して三四百斤もあるべし而してガラス龜は進退出没頗ぶる神速にして容易に之を捕獲することを得ず水龜はガラス龜に比すれば其捕獲難からず水龜及び赤龜は網を以て岩礁の間を圍み之を追ひ出して其網に罹らしめ以て捕獲するを常とすガラス龜ハ多くは産卵の爲めに上陸して或場所に潜伏せる際に抑へて之を捕獲す漁夫どもの言によれば其上陸する場所ハ主に竹富島、西表島及び石垣島の内にありと云ふ而して其産卵の場所ハ沙浜の岩石間或ハ阿旦の下蔭の如き所にして産卵期ハ何れも六七八月頃なるが如し水龜及ガラス龜ハ四季之を見ざることなしと雖ども赤龜ハ十二月頃より六、七月頃までの間に之を見る且つ赤龜は岸邊に近寄らず常に遠海に在り水龜及ガラス龜は主に港灣の如き海波靜穏にして海草類の多き所に栖息す肉は水龜及ガラス龜は佳なれども赤龜は不可なり甲ハガラス龜の甲最も貴し水龜之に亞ぎ赤龜ハ吻のみ價値あり尤もガラス龜の中にも上下ありて其上等のものにして且つ大なるものハ甲と肉とを合せて二三十圓に價ひするものあり水龜も甲と肉とを併せて三四圓に上るものあり松原氏の豫察報告に據ればガラス龜は玳瑁にして元■印度大西洋の生産物なるか如し捕獲法宜しきを得ば更に一層の利益あるべし
十、(夜光貝)此貝の採捕を創めしハ近く二十年前にありて其當時ハ採捕難からざりしも漸次減少し近年に至つてハ採捕頗ぶる困難なるが如し尤も久場島近海には今尚ほ多少なきにあらざれども彼の猛惡なる鱶類の多き爲め之を懼れて採捕に出掛くるもの少し而して其採捕期は二三月頃にして孕卵期は多分七八月頃なるが如し尚ほ將來細密に孕卵期を調査し介種の濫獲及び孕卵期中の採捕を禁じて其蕃殖を圖らずんば益々減少すべし
十一、(ヒイ貝) 重に海波靜穏なる水底泥沙中の岩石に寄生するものにして之を採捕せし當初は西表島の各港灣内には其數多かりしも濫獲の爲め漸次減少し近年に至つてハ採捕甚だ困難なり現行取締法を励行するにあらずんは是れ亦益々減少を見るべし
十二、(高尻貝) 八重山列島近海到る處多少産出せざることなしと雖ども近來濫獲の爲め大に減少せり然れども夜光貝、ヒイ貝に比すれば今尚ほ其産額多し
十三、(海人草) ハ別に種類あるなし唯だ製造法に依て其價格に差あるのみ即ち海中より採捕のまゝ乾燥せしめたるものは一斤に付二錢位雜物等を拾ひ去ッて克く洗ひ上げたるものは一斤凡そ十二三錢以上なり是れ亦八重山列島近海到る處多少産出せざることなしと雖とも西表島近海殊に多しとす

現代仮名遣い表記

八重山群島(十二)  
     琉球新報 明治三十八年八月二十五日

水 産(続)
▲重要海産物の概要
九、(海亀) に三種ある。其一を水亀と言い、一を赤亀と言い、一をガラス亀と言う。其内水亀最も多く、赤亀之に次ぎ、ガラス亀最も少くして且つ小なり。水亀及赤亀の最大なるものは概して三、四百斤もあるべし。而してガラス亀は進退出没頗ぶる神速にして容易に之を捕獲することを得ず。水亀はガラス亀に比すれば其捕獲難からず。水亀及び赤亀は網を以て岩礁の間を囲み、之を追い出して其網に羅らしめ以て捕獲するを常とす。ガラス亀は多くは産卵の為めに上陸して或場所に潜伏せる際に抑えて之を捕獲す。漁夫どもの言によれば、其上陸する場所は主に竹富島、西表島及び石垣島の内にありと言う。而して其産卵の場所は砂浜の岩石間或は阿旦の下蔭の如き所にして、産卵期は何れも六、七、八月頃なるが如し。水亀及ガラス亀は四季之を見ざることなしと雖ども、赤亀は十二月頃より六、七月頃までの間に之を見る。且つ赤亀は岸辺に近寄らず常に遠海に在り。水亀及ガラス亀は主に港湾の如き海波静穏にして海草類の多き所に棲息す。肉は水亀及ガラス亀は佳なれども赤亀は不可なり。甲はガラス亀の甲最も貴し。水亀之に次ぎ赤亀は吻のみ価値あり。尤もガラス亀の中にも上下ありて、其上等のものにして且つ大なるものは甲と肉とを合せて二、三十円に価いするものあり。水亀も甲と肉とを併せて三、四円に上るものあり。松原氏の予察報告に拠れば、ガラス亀は玳瑁にして元■印度大西洋の生産物なるが如し。捕獲法宜しきを得ば更に一層の利益あるべし。
十、(夜光貝) 此貝の採捕を創めしは近く二十年前にありて、其当時は採捕難からざりしも漸次減少し、近年に至っては採捕頗ぶる困難なるが如し。尤も久場島近海には今尚お多少なきにあらざれども、彼の猛悪なる鱶類の多き為め、之を恐れて採捕に出掛くるもの少し。而して其採捕期は二、三月頃にして、孕卵期は多分七、八月頃なるが如し。尚お将来細密に孕卵期を調査し介種の濫獲及び孕卵期中の採捕を禁じて其蕃殖を図らずんば益々減少すべし。
十一、(ヒイ貝) 重に海波静穏なる水底泥砂中の岩石に寄生するものにして、之を採捕せし当初は、西表島の各港湾内には其数多かりしも、濫獲の為め漸次減少し、近年に至っては採捕甚だ困難なり。現行取締法を励行するにあらずんば是れ亦益々減少を見るべし。
十二、(高尻貝) 八重山列島近海到る所多少産出せざることなしと雖ども、近来濫獲の為め大に減少せり。然れども夜光貝、ヒイ貝に比すれば今尚お其産額多し。
十三、(海人草) は別に種類あるなし。唯だ製造法に依て其価格に差あるのみ。即ち海中より採捕のまゝ乾燥せしめたるものは一斤に付二銭位。雑物等を拾い去って克く洗い上げたるものは一斤凡そ十二、三銭以上なり。是れ亦八重山列島近海到る所多少産出せざることなしと雖ども、西表島近海殊に多しとす。