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◎八重山群島(九)

掲載年月日:1905/8/19(土) 明治38年
メディア:琉球新報社 3面 種別:記事

原文表記

◎八重山群島 (九)
 水產(續)
▲重要海產物の槪容 烏賊類に六種あり左の如し
△トビイカ 其最大なるもの重量三四斤に過ぎざれとも其數夥しく遠海に出づれば到る所あらざるなく鳩間島の西三四海里の海上に最も多し糸滿人等は重に此邊にて漁すと云ふ其漁期は七八月頃なり
△アカイカ 重さ七八斤にして漁期は十月頃より翌年二三月頃とし其數又多く八重山列島到る所に見ざるなしと雖も石垣島白保近海に最も多しと云ふ
△シロイカ 此種は小形にして其大なるものと雖二三斤に過ぎず數はアカイカよりも多く竹富小濱島近海に最も多しとす四季漁するを得
△セイイカ 烏賊類中最大なるものにして重さ五六十斤に達するものありされど其數は至るて少くトビイカ捕獲の際稀に捕ふることあり色はアカイカに似て味佳なり漁期は七八月頃とす
△コハイカ 此種は烏賊類中の最小なるものにして重さ僅に半斤位色はシロイカに似て重に岩礁の間に栖息し味頗る美其數又多く七八月頃を漁期とす
△コブシメ 重さ十五六斤位其數多く孕卵期は大抵十二月より翌年二月頃なるが如く漁期も亦十一月より二月頃迄とす
三四月の頃磯邊に烏賊の稚児を見ることあり之何種の稚児なるか分明ならざれども或はシロイカの稚児ならざるかと云ふものあり與那國島近海はトビイカ多しアカイカは多少あれどもシロイカは更に見當らずと云ふ
三、イリン(海鼠)に十分種あり左の如し
△チリメン 長五六寸ありて品質最佳良なり岩間に栖息し宮古島に比すれば產出少く漁期は四五月頃とす
△ガスマル 長六七寸許岩間に栖息し其數多けれども品質劣等なり黑島竹富及石垣島の内白保邊の沿岸に多し漁期は四五月頃
△コソー 長三四寸品質中等に位し岩間に栖息するを常とす黑島竹富及石垣島の内白保邊の沿岸に多く漁期は四五月頃
△シビー 長四五寸品質上等なり岩間に栖息し產地は黑島竹富及石垣島の内白保邊の沿岸最も多し
△メハヤ-(一名タクー) 長五六寸其數多けれども品質下等にして岩間に栖息す漁期は四月より六月迄とし產地は上四種と仝じ
△ゾーノゲタ 長二三寸に過ぎざれど品質佳良にして其數多く常に岩上に栖息し石垣島の内平久保崎近海に多く尤も淺處を好むと云ふ漁期は六月より八月頃迄とす
△スナホヤー(一名シラベ-) 長三四寸許沙上に栖息し其數多くして海鼠中の最多を占むれども品質は劣等なり晝間は沙中に潜伏し夜間出でて食を求む黑島沿岸に多し漁期は六月より八月頃迄
△マーイリコ(一名ハネチイリコ) 長六七寸泥上に栖息し其數少く品質も又劣等なり西表島仲間村近海に於て見當ることあり漁期は七八月頃
△サバー 長六七寸ありて沙上に栖息す八重山列島到る處に多少之れあらざるなけれども品質惡しく買手なき故採補するものなし漁期は五月頃より八月迄とす
△コブシメ- 長四五寸許其數多くして八重山列島到る所見ざるなしと雖もサバーと等しく品質惡しきゆへ港て採補せず漁期六七月頃
△デーサン 八重山諸島沿岸到る處にあらざるなしと雖も品質劣等にして買手なきがゆえ好で採補せず烏賊類中最小なるものにして凡三十四位も併せざれば一斤に滿たず岩間に栖息するを常とす此種は又刺を有す刺あるものは之とガズマルのみ
之が製造法は全体の儘沸湯に入れ後ち竹簀に上せて之を乾かす尤もシラマコワー、サバー、マイリコ、コハーの四種は体大にして乾燥し難きゆえに腹部を縦割するを要す生產多しと記したるものゝ内濫獲の爲め減少し現今は少なきものもあり

現代仮名遣い表記

◎八重山群島 (九)
 水産(続)
▲重要海産物の概容 イカ類に六種あり左の如し。
△トビイカ その最大なるもの重量三四斤に過ぎざれとも、その数夥しく遠海に出づれば、到る所あらざるなく、鳩間島の西三四海里の海上に最も多し。糸満人等は重にこの辺にて漁すと云う。その漁期は七八月頃なり。
△アカイカ 重さ七八斤にして漁期は十月頃より翌年二、三月頃とし、その数又多く八重山列島到る所に見ざるなしと雖も、石垣島白保近海に最も多しと云う。
△シロイカ この種は小形にしてその大なるものと雖二三斤に過ぎず、数はアカイカよりも多く竹富小浜島近海に最も多しとす。四季漁するを得。
△セイイカ イカ類中最大なるものにして重さ五六十斤に達するものあり、されどその数は至るて少くトビイカ捕獲の際。稀に捕ふることあり。色はアカイカに似て味佳なり。漁期は七、八月頃とす。
△コハイカ この種はイカ類中の最小なるものにして重さ僅に半斤位、色はシロイカに似て重に岩礁の間に栖息し味頗る美。その数又多く七、八月頃を漁期とす。
△コブシメ 重さ十五六斤位その数多く、孕卵期は大抵十二月より翌年二月頃なるが如く、漁期もまた十一月より二月頃迄とす。
三、四月の頃磯辺にイカの稚児を見ることあり。これ何種の稚児なるか分明ならざれども、或はシロイカの稚児ならざるかと云うものあり。与那国島近海はトビイカ多しアカイカは多少あれども、シロイカは更に見当らずと云う。
三、イリン(ナマコ)に十分種あり左の如し
△チリメン 長五六寸ありて、品質最佳良なり、岩間に栖息し宮古島に比すれば産出少く漁期は四、五月頃とす。
△ガスマル 長六七寸、許岩間に栖息しその数多けれども品質劣等なり。黒島、竹富及石垣島の内、白保辺の沿岸に多し。漁期は四、五月頃。
△コソー 長三四寸、品質中等に位し岩間に栖息するを常とす。黒島、竹富及石垣島の内、白保辺の沿岸に多く、漁期は四、五月頃。
△シビー 長四五寸品質上等なり、岩間に栖息し産地は黒島、竹富及石垣島の内、白保辺の沿岸最も多し。
△メハヤ-(一名タクー) 長五六寸、その数多けれども品質下等にして、岩間に栖息す。漁期は四月より六月迄とし産地は上四種と同じ。
△ゾーノゲタ 長二三寸に過ぎざれど、品質佳良にして、その数多く常に岩上に栖息し、石垣島の内、平久保崎近海に多く、もっとも浅処を好むと云う。漁期は六月より八月頃迄とす。
△スナホヤー(一名シラベ-) 長三四寸許沙上に栖息し、その数多くしてナマコ中の最多を占むれども品質は劣等なり、昼間は沙中に潜伏し夜間出でて食を求む。黒島沿岸に多し。漁期は六月より八月頃迄。
△マーイリコ(一名ハネチイリコ) 長六七寸泥上に栖息し、その数少く品質も又劣等なり。西表島仲間村近海に於て見当ることあり。漁期は七、八月頃。
△サバー 長六七寸ありて沙上に栖息す。八重山列島到る処に多少これあらざるなけれども、品質悪しく買手なき故、採補するものなし。漁期は五月頃より八月迄とす。
△コブシメ- 長四五寸許、その数多くして八重山列島到る所見ざるなしと雖も、サバーと等しく品質悪しきゆへ港で採補せず。漁期六、七月頃。
△デーサン 八重山諸島沿岸到る処にあらざるなしと雖も、品質劣等にして買手なきがゆえ、好で採補せずイカ類中最小なるものにして、凡三十四位も併せざれば一斤に満たず。岩間に栖息するを常とすこの種は又刺を有す。刺あるものはこれとガズマルのみ。
これが製造法は全体のまま沸湯に入れ後ち竹簀に上せて、これを乾かす。もっともシラマコワー、サバー、マイリコ、コハーの四種は体大にして乾燥し難きゆえに、腹部を縦割するを要す。生産多しと記したるものの内、乱獲の為め減少し現今は少なきものもあり。