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諤々錄(松村仁之助)

掲載年月日:1902/5/21(水) 明治35年
メディア:琉球新報社 2面 種別:記事

原文表記

●諤々錄
八重山に寄留して居る商人松村某一昨日の兒玉總督歡迎會の席上で知事の挨拶終るや奉書に書いた會面を取り出し席上で朗讀して總督の秘書官に渡したその主意は台灣の定期航路が廢された爲め餘程不便を感ずるからどうかして呉れと云ふ建白書であつた松村の精神はさることだがあれでハ招待して小言を聞かす樣なもので决して禮儀を辨へたものとは云へない建白もするなら塲合がある折角海路の勞を慰藉しやうと思ふて招待したのにその席であんなことをされては困る發起人に一應の相談はあつたかその邊は知らないが斯る宴會ハ共同のものであるからあんな事は會員に一應相談して同意を得た後にする樣でなければ他が迷惑する既往ハ追ハないが特に記して來者を戒て置く▲理髪屋の消毒に就て吾々か再三その實行を促かしたから警察では理髪屋を呼出して說論したさうだ處がその說論が面白い可成消毒する樣にせよ併しそれが爲理髪代を上げる樣になつてハ折角散切になつたものが再ひ元の結髪になる樣なことが出來ても困るから今の通りで消毒がやれるならやれとのことだそうだ今日になつて理髪代の爲めに結髪する樣なものがある者か縱令結髪令が出てもそれに服しないのは請合ひだ余は警察の神經が最小■鈍くならんとを希望する▲自己の便益ばかり考へて他の迷惑を顧みないのは本縣の通弊である警察で通行妨害の廉で處分される車夫ハ随分あるが之が爲めに氣をつける樣に傾きは少しも見へない此間も松田橋際の井ノ口の家からセメントの樽を積み出す荷車があつたが長い梶棒を道一杯に横へて置いてあるから人力車抔通る筈がない三台も人力が止つて居て早く片着ろと云ふも荷車の曳子平氣の平左で積む丈けのものを積まない中ハ振りかへつても見ないこんなざまハ往々あることで西の狹い通りの駄馬と荷車の爲めにハ毎度困る願くは警察から十分說論して貰ひたい(侃々子)

現代仮名遣い表記

●諤々録
八重山に寄留して居る商人松村某、一昨日の兒玉総督歓迎会の席上で、知事の挨拶終るや奉書に書いた会面を取り出し、席上で朗読して総督の秘書官に渡した。その主意は台湾の定期航路が廃された為め、余程不便を感ずるからどうかして呉れ。と云ふ建白書であった。松村の精神はさることだが、あれでは招待して小言を聞かす様なもので、決して礼儀を弁へたものとは云へない。建白もするなら場合がある。折角海路の労を慰藉しようと思うて招待したのに、その席であんなことをされては困る。発起人に一応の相談はあったかその辺は知らないが、斯る宴会は共同のものであるから、あんな事は会員に一応相談して、同意を得た後にする様でなければ他が迷惑する。既往は追はないが、特に記して来者を戒て置く
▲理髪屋の消毒に就て、我々が再三その実行を促かしたから、警察では理髪屋を呼出して説論したそうだ。ところがその説論が面白い。可成消毒する様にせよ、併しそれが為理髪代を上げる様になっては折角散切になったものが、再び元の結髪になる様なことが出来ても困るから、今の通りで消毒がやれるならやれとのことだそうだ。今日になって理髪代の為めに結髪する様なものがある者か。縦令結髪令が出ても、それに服しないのは請合いだ。余は警察の神経が最小■鈍くならんとを希望する
▲自己の便益ばかり考へて、他の迷惑を顧みないのは本県の通弊である。警察で通行妨害の廉で処分される車夫は随分あるが、之が為めに気をつける様に傾きは少しも見へない。この間も松田橋際の井ノ口の家から、セメントの樽を積み出す荷車があったが、長い梶棒を道一杯に横へて置いてあるから、人力車抔通る筈がない。三台も人力が止つて居て早く片着ろと云うも荷車の曳子、平気の平左で積む丈けのものを積まない中は振りかへっても見ない。こんなざまは往々あることで、西の狭い通りの駄馬と荷車の為めには毎度困る。願くは警察から十分説論して貰いたい(侃々子)