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◎実業片談

掲載年月日:1902/4/21(月) 明治35年
メディア:琉球新報社 3面 種別:記事

原文表記

◎實業片談
◎實業々々の聲ハ近來大に高まり各種宴會の席でも學校の式塲でも將■酒間の談話で■奈良原知事が音頭をとつて盛んに實業談をやらないことハない併し實際を見るとまだまだ一般の氣運ハこの方面に向かず新社會の骨髓とも稱すべき靑年輩の希望ハ官途■あるのだ我輩は奈良原知事がよく世界の大勢を看破して大に實業的精神を皷吹せらるゝの勞を謝すると同時に今一層其聲を大にして各學校■敎員が其意を体して同一の方向に勇進する樣將勵あらんことを希望する。
◎實業とか實業敎育とか云ふ聲か日々に盛んになつて來るのは誠に目出度次第てある併聲ばかりではいくら太きくなつても仕樣がない實際と相伴ふ樣にならなければならない實業は尊いものだ國の基礎だとか云ふけれども實業家ハ官吏程尊重されないではないか一寸考へたら實業界より官途の方ハ割がよいし世間では幅がきくと云ふ勢ひだから思慮が定まらない靑年輩が相率いて官途に赴むくのは强ち無理とも云へない
◎此聲を實にするの責任の渦半はどうしても實業界の先輩が負はないければならない先輩が昔の實業家の樣に恐縮ばかりして居るから末社のもの■肩身か狹くなるはこれは自然の沙汰だ日本には御用商人と云ふて官吏のご機嫌を損ふてハ自家の算盤玉■響くと云ふ情弊があるからこれが爲めに商業家の位地を落したこと随分甚しい之等は先つ論外として苟も獨立獨行の實業家ハ何も官吏の前てびくびくするにハ當らないではないか
◎服裝の事に就ても我輩ハ度々論したことがあるがこれも卽ち實業家が自ら其地位を卑しくした一原因だ商人社會でハ口髭■ハやしたり洋服をつけたりすると生意氣とかいろいろ難癖をつける風があるが斯る精神では實業家の地位ハますます卑くなるばかりだ
◎今日の實業家を見渡す■毅然として起つて居るのに製肉會社の森田君に廣運社の護得久君■沖銀の高嶺君に自四十七支店の永江君■それから中馬辰次郎君に古賀君■ひのものだ
◎それから服裝の側で云へは■謂商人然たる風かぬ■たのハ森田君に護得久君に中馬君に林君■荻田君位ひ■ものだ尤も森田護得久の二君ハ出所が違ふから別に引合に出すにも及ばないが中馬君や林君か口髭をハやし洋服をつけ居るのハ盖し考ふる所かあつての事■信する■輩諸氏大に奮發して從來の氣風を革新し給へ

現代仮名遣い表記

◎実業片談
◎実業々々の声は近来大に高まり、各種宴会の席でも学校の式場でも、将■酒間の談話で■奈良原知事が音頭をとって盛んに、実業談をやらないことはない。しかし実際を見ると、まだまだ一般の気運はこの方面に向かず、新社会の骨髄とも称すべき青年輩の希望は官途■あるのだ。我輩は奈良原知事がよく、世界の大勢を看破して、大に実業的精神を皷吹せらるるの労を謝すると同時に、今一層その声を大にして各学校■教員がその意を体して、同一の方向に勇進する様奨励あらんことを希望する。
◎実業とか実業教育とか云う声が、日々に盛んになって来るのは、誠にめでたい次第である。しかし声ばかりではいくら太きくなっても仕様がない。実際と相伴う様にならなければならない。実業は尊いものだ国の基礎だとか云うけれども、実業家は官吏程尊重されないではないか。一寸考えたら実業界より官途の方は割がよいし、世間では幅がきくと云う勢いだから、思慮が定まらない青年輩が相■いて官途に赴くのは強ち無理とも云えない
◎この声を実にするの責任の渦半は、どうしても実業界の先輩が負はないければならない。先輩が昔の実業家の様に恐縮ばかりして居るから、末社のもの■肩身が狭くなるは、これは自然の沙汰だ。日本には御用商人と云うて、官吏のご機嫌を損うては、自家の算盤玉■響くと云う情幣があるから。これが為めに商業家の位地を落としたこと随分甚しい。これらは先づ論外としていやしくも、独立独行の実業家は何も官使の前でびくびくするには当らないではないか。
◎服装の事に就ても、我輩は度々論したことがあるが、これも即ち実業家が自ら、其地位を卑しくした一原因だ。商人社会では、口髭■はやしたり、洋服をつけたりすると、生意気とかいろいろ難癖をつける風があるが。斯る精神では、実業家の地位はますます卑しくなるばかりだ。
◎今日の実業家を見渡す■、毅然として起って居るのに、製肉会社の森田君に、広運社の護得久君■沖銀の高嶺君に、自四十七支店の永江君■それから中馬辰次郎君に、古賀君■ひのものだ。
◎それから服装の側で云えば■謂商人然たる風かぬ■たのは、森田君に護得久君に中馬君に林君■荻田君位い■ものだ。もっとも森田護得久の二君は、出所が違うから、別に引合に出すにも及ばないが、中馬君や林君か、口髭をはやし洋服をつけ居るのは、蓋し考えうる所かあっての事。■信する■輩諸■台に奮発して、従来の気風を革新したまえ。