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●訪問録(南淸貿易について)
原文表記
●訪問録(南淸貿易に就て)
◎伊是名朝睦
南淸貿易の有望なる事は今更申迄もなし而かも航路なけれは双方の貿易行はるへからさるを以て開港塲を支持し得るや否やは一に航路を開くと開かさるとに因るものと謂はさるへからず而して貿易の方法は一個人の小資本を以て取引を爲すよりは寧ろ會社を設けて資本を大にして双方貿易品を一手に引受くるを得策とす凡そ海外貿易は小資本にては外人と對抗し能はす個人的の商業は失敗多きか故に南淸貿易に就ても大資本を集むる會社を以て之に當るにあらすんば或は失敗あらん事を虞るゝなり故に余は南淸貿易を行ふ方法としては一の會社を組織して大資本を以て取引を爲すか然らすんは大坪其他二三の資本家か組合を設けて彼地に支店を設け以て双方の物產を販賣するを好しとするなり舊藩の渡唐船時代に於ては交通の不便と素人の商法を以てして尙ほ莫大の利益ありし事は世人の知る所なり然るに今は彼との直接航路を開きて交通を便にし且商業に經驗ある人か專ら貿易に從事せんとす南淸貿易の有望なること今更申迄もなき事なりと謂ふべし
◎知花朝章
元來海外貿易の盛衰は船路の便不便に依るは當然にし那覇開港塲を支持するは南淸へ直接航路さへ開始すれは輸出入貨物の價額五万圓に上るは容易なるべし何となれば世人も能く知るか如く本縣の海產物は從前は福州へ直接輸出し現今は大阪に於て支那人に賣渡し直ちに上海を經て福州へ送附す且つ鹿兒島邊の海產物をも沖繩を經て輸出し随分利益ありしことなれは今若し航路開始すれは本縣及ひ他府縣の海產物をも輸入し得るの望あれはなり航路開始に就ては何れ政府の保護を仰かさるへからすを以て知事の儘力に依り政府も同意して來議會に提出せらるゝの運ひに相成りたる由惟ふに議會に於て■其必要を認めて精細に調査すへく北淸航路は既に保護を與へなから那覇開港と相■■して福州貿易に必要なる航路に保護を與へすと云ふか如き不公平の處■はあるましき事なれは議會の通過は望あり而して航路開通貿易も漸次進歩に赴くべし併しなから若し萬一不幸にして政府の保護出來さる時は兎も角那覇港に關係ある海運業者又は商業家諸君■謀りて暫時間に合せ位の■持は相成るべしと雖とも余か見る所を以てすれ開港塲を永遠に維持し貿易を盛大にするには專ら政府の保護を仰くの外他に策なしと信するなり
◎看守長及ひ監獄醫の昇級
看守長善積正藏氏は三級俸に監獄醫鉢嶺清懐氏は月俸四十圓に何れも昇級せり
現代仮名遣い表記
●訪問録(南清貿易に就て)
◎伊是名朝睦
南清貿易の有望なる事は今更申迄もなし。しかも航路なければ双方の貿易行わるべからざるを以て、開港場を支持し得るや否やは一に航路を開くと開かざるとに因るものと謂はざるべからず。しかも貿易の方法は一個人の小資本を以て取引を為すよりは、寧ろ会社を設けて資本を大にして双方貿易品を一手に引受けるを得策とす、およそ海外貿易は小資本にては外人と対抗できない。個人的の商業は失敗多きが故に、南清貿易に就ても大資本を集むる会社を以てこれに当るにあらずんば或は失敗あらん事をおそれるなり。故に余は南清貿易を行う方法としては、一の会社を組織して大資本を以て取引を為すか、然らずんば大坪その他二三の資本家が組合を設けて彼地に支店を設け、以て双方の物産を販売するを好しとするなり。旧藩の渡唐船時代に於ては、交通の不便と素人の商法を以てしてなお莫大の利益ありし事は世人の知る所なり。然るに今は彼との直接航路を開きて交通を便にし、その商業に経験ある人が専ら貿易に従事せんとす。南清貿易の有望なること今更申す迄もなき事なりと謂うべし。
◎知花朝章
元来海外貿易の盛衰は船路の便不便に依るは当然にし、那覇開港場を支持するは南清へ直接航路さえ開始すれば輸出入貨物の価格五万円に上るは容易なるべし。なぜならば世人もよく知るが如く、本県の海産物は従前は福州へ直接輸出し、現今は大阪において支那人に売渡し直ちに上海を経て福州へ送附す、且つ鹿児島辺の海産物をも沖縄を経て輸出し随分利益ありしことなれば、今もし航路開始すれば本県及び他府県の海産物をも輸入し得るの望あればなり。航路開始については何れ政府の保護を仰がざるべからずを以て、知事の儘力に依り政府も同意して来議会に提出せられるの運びに相成りたる由、おもうに議会に於て■その必要を認めて精細に調査すべく、北清航路は既に保護を与えながら那覇開港と相■■して福州貿易に必要なる航路に保護を与えず、と云うが如き不公平の処■はあるまじき事なれば議会の通過は望あり、そうして航路開通貿易も漸次進歩に赴くべし。しかしながら若し万一不幸にして政府の保護出来ざる時は、ともかく那覇港に関係ある海運業者又は商業家諸君■謀りて暫時間に合せ位の■持は相成るべしといえども、余が見る所を以てすれ開港場を永遠に維持し貿易を盛大にするには専ら政府の保護を仰ぐの外、他に策なしと信ずるなり。
◎看守長及ひ監獄医の昇級
看守長善積正蔵氏は三級俸に監獄医鉢嶺清懐氏は月俸四十円に何れも昇級せり