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尖閣列島談(承前)

掲載年月日:1900/7/13(金) 明治33年
メディア:琉球新報社 2面 種別:記事

原文表記

尖閣列島談(承前)
     琉球新報 明治三十三年七月十三日

かく飮料水に不便ですから何事にまれ此島に經營せんとせは先飮料水を如何にすべきやの問題か起るのです小生は昨年古賀氏より堀井の相談を受けたことがありましたが今日之を實檢すれは彌六ヶ敷のですよし大金を抛ち堀井を成就すとも島上一面鳥の死骸を以つて滿され居る今日飮料などは中々思ひもよらぬ事です小生は昨年も天水論を唱へました今日迄は屋根の滴りを小な水溜に受け置きそれを用ひて居ります衛生上より見れは此島に相應で別に非難ハ御座りませんが可成ハ煉瓦にて一大水庫を疊み沈澱濾過の装置を附志日光を遮りて有機物の繁殖を防き充分なる飮料水を得たいのです古賀氏は此度彌此設計を實施さるゝことになり六千余個の煉瓦を持ち行き村の上方(うへのかた)に一大水庫を造りました設計は専ら島宮氏の手になり同氏は始終之を監督し小生は少々地形地質上につき顧問となりたのですかゝる完全なる水溜ハ沖繩にてハ多くは見られますまい扨彌此水溜の實効を見る迄にハ此上尚多少の工事を要しますので第一に雨水を受くべき清潔なる広き斜面が必用ですこれは蒲葵葉を以て充分に作られます先年此島にて數名の脚氣患者を出し其内二三名斃れま志たのハ腐敗したる水を始終用た故だと申ことなり左すれは今後此一點に就きては氣遣い無用です又此島の最高點は實に六百英尺です是れ即ち小塍峰でして余が新に余名せし所其他地理地質上のことは他日に讓りまして茲に今一つ「アホウドリ」即ち信天翁の御話を致しましやう此地方に來往する信天翁には二種の別かあります分り易く申さば白きのと黒きのとです前者ハ大きく後者は稍小いのです孰れも十月頃より卵を生む様子でして余が着島の節の如き最早雛ハ大きく相成大漑ハ獨立の生活を營み山中に殘るのハ少いです故に新しき卵を見ることは望まれぬので御座ります若し余が巡回せる期節に迄この卵が其儘ありとすれば實に大變です小生も山中にて此大變な卵を二三度見ました諸君山中で卵子見付けて大變と斗り申上てハお分りになりますまいか其實今日迄殘り居る卵は皆腐敗し居るのです只腐敗し居る斗りなれは大變と申事ハありませねで腐敗に伴ひ多くの瓦斯を發生し卵殻ハ此瓦斯の爲め強大の壓力を受けて居ります若此卵を手に握るか或は杖などにていじりますと恰破囊丸の如く強き爆聲を放ち四分五裂するのて極めて危險です顔といハす手と■す即時この一種不可思議の鍍金法を破ふるので其若しさ譬ふるに物なし後此島に渡る人あらば殷鑑とせられてよし

現代仮名遣い表記

尖閣列島談(承前)  
     琉球新報 明治三十三年七月十三日

かく飲料水に不便ですから何事にまれ此島に経営せんとせば、先飲料水を如何にすべきやの問題が起るのです。小生は昨年古賀氏より堀井の相談を受けたことがありましたが、今日之を実検すれば弥難しいのです。よし大金を抛ち堀井を成就すとも、島上一面鳥の死骸を以って満され居る今日、飲料などは中々思いもよらぬ事です。小生は昨年も天水論を唱えました。今日迄は屋根の滴りを小な水溜に受け置きそれを用いて居ります。衛生上より見れば此島に相応で別に非難は御座りませんが、可成は煉瓦にて一大水庫を畳み、沈澱濾過の装置を附し、日光を遮りて有機物の繁殖を防ぎ、充分なる飲料水を得たいのです。古賀氏は此度弥此設計を実施さるゝことになり、六千余個の煉瓦を持ち行き、村の上方に一大水庫を造りました。設計は専ら宮島氏の手になり、同氏は始終之を監督し、小生は少々地形地質上につき顧問となりたのです。かゝる完全なる水溜は沖縄にては多くは見られますまい。扨弥此水溜の実効を見る迄には此上尚多少の工事を要しますので、第一に雨水を受くべき清潔なる広き斜面が必用です。これは蒲葵葉を以て充分に作られます。先年此島にて数名の脚気患者を出し、其内二、三名斃れましたのは腐敗したる水を始終用た故だと申ことなり。左すれば今後此一点に就きては気遣い無用です。又此島の最高点は実に六百英尺です。是れ即ち小塍峰でして、余が新に命名せし所其他地理地質上のことは他日に譲りまして、茲に今一つ「アホウドリ」即ち信天翁の御話を致しましょう。此地方に来往する信天翁には二種の別があります。分り易く申さば白きのと黒きのとです。前者は大きく後者は稍小いのです。孰れも十月頃より卵を生む様子でして、余が着島の節の如き最早雛は大きく相成、大概は独立の生活を営み、山中に残るのは少いです。故に新しき卵を見ることは望まれぬので御座ります。若し余が巡回せる期節に迄この卵が其儘ありとすれば実に大変です。小生も山中にて此大変な卵を二、三度見ました。諸君、山中で卵子見付けて大変と計り申上てはお分りになりますまいが、其実今日迄残り居る卵は皆腐敗し居るのです。只腐敗し居る計りなれば大変と申事はありませねで、腐敗に伴い多くの瓦斯を発生し、卵殻は此瓦斯の為め強大の圧力を受けて居ります。若此卵を手に握るか或は杖などにていじりますと、恰破囊丸の如く強き爆声を放ち四分五裂するので極めて危検です。顔といわず手と■ず、即時この一種不可思議の鍍金法を被るので其苦しさ譬うるに物なし。後此島に渡る人あらば殷鑑とせられてよし。