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●上海通信
原文表記
●上海通信(九月十三日 發玄海丸便)前號の續き淸國總稅務司の後任 ロバート、ハート氏が英國公使の職を辭し再び総稅務司に任ぜられたりとの說は本港の諸新聞にも記載ありて衆人皆な以て確實なりと信ずる勢なれども新吾ハ暫く此報に信を措くことを差扣へ尙ほ確報に接するを俟て更に報道するを怠らざるべし又総稅務司の後任ハゼームス、ハート氏なるべしと前信に報じ置きたるが右ハ新吾が平素信任する英人某より傳聞したる所にして其後両三日を經て本港の新聞にも其說を記載したれば益々確信するに足るものなりと斷定し居りし處 頃日 仄に聞く所の模樣にては未だ全く確實なりとも云ひ難し蓋しロバート、ハート氏の考案には総稅務司の事務は廣く外國に交渉するを以て人物其宜きを得ざる時は淸國は申すに及ばず諸外國の便否利害にも關すべきに付自己の信認する適當の人を撰び置かざれば他日不測の不都合を釀すことあらんとの用心に其職に堪ゆべき人物と認る者を撰びて推薦すれども総理衙門に於ては彼是と苦情をつけて採用せず今に其後任定まらずハート氏も殆ど困難を極め居らるゝとの說あり日章旗を樹つ 上海文匯報は朝鮮より得たる報道なりとて日本は淸國の版圖内にて台灣の東部に位するマヤアカ島(宮子島の事か)の群島に國旗を樹てたりとの事を記し且此事果して實ならんには北京政府は如何なる處置を施すべきや必ず故障を入るゝの外なかるべしとの意を述べたりしが想ふに近頃沖繩縣令にハ縣下諸島を巡視中なりと聞けば目今歐洲諸國が東洋を覬視し都合よき島もあらバ我有となし根據となさんと探索し歩くは少も油斷のならぬ世の中故に日本の領地たる事を示す爲め該島へ國旗を掲げられたるにてもあるべく別に怪むべき事にてもあらざるべし仰々宮子島とは宮子、石垣、入表、與那國等の諸島を総稱する者にして先年琉球事件に際し淸廷が種々の異議を申立たる折我宍戶公使が「若し淸廷に於て我國人の内地通商を許さバ該群島を將て淸國に讓與すべし」との議を發せられしも淸廷に於て之を肯ぜざりしと聞き及びたる事もありて該島は純然たる我日本の版圖なることを明瞭なり然るを何ぞや日本が我國旗を掲げやうが城郭砲台を築かうが北京政府に於て毫も異議を入るゝ理あらんや文匯報記者が其事實をも質さず妄に朝鮮人や支那人等の云ふ事を信じて忽ち評論を下したるは片腹痛きことにこそ
記者云ふ本年八月下旬沖繩縣の官吏數名が共同運輸會社の出雲丸に搭じて那覇港を距る百里許の東に位する大東島と云る無人島に到り上陸して地理を取調べたる末國旗と標柱とを樹てゝ歸りたる由本月十三日の鹿兒島新聞に載ありしが本文のマヤアカ島に我國旗を樹たりとの報は蓋し此事を云なるべし(未完)
現代仮名遣い表記
●上海通信(九月十三日 発玄海丸便)前号の続き清国総税務司の後任 ロバート、ハート氏が英国公使の職を辞し再び総税務司に任ぜられたりとの説は本港の諸新聞にも記載ありて衆人皆な以て確実なりと信ずる勢なれども新吾は暫く、この報に信を措くことを差控へ尚お確報に接するをまちて、更に報道するを怠らざるべし。又総税務司の後任はゼームス、ハート氏なるべしと前信に報じ置きたるが、右は新吾が平素信任する英人某より伝聞したる所にして、その後両三日を経て本港の新聞にもその説を記載したれば益々確信するに足るものなりと断定し居りし処、この頃 ほのかに聞く所の模様にては、未だ全く確実なりとも云い難し蓋し。ロバート、ハート氏の考案には総税務司の事務は広く外国に交渉するを以て人物その宜きを得ざる時は、清国は申すに及ばず諸外国の便否利害にも関すべきに付、自己の信認する適当の人を選び置かざれば、他日不測の不都合を醸すことあらんとの用心にその職に堪ゆべき人物と認る者を選びて推薦すれども、総理衛門に於ては彼是と苦情をつけて採用せず今にその後任定まらず。ハート氏も殆ど困難を極め居らるるとの説あり。
日章旗を樹つ 上海文匯報は朝鮮より得たる報道なりとて、日本は清国の版図内にて台湾の東部に位するマヤアカ島(宮子島の事か)の群島に国旗を樹てたりとの事を記し、且この事果して実ならんには北京政府は如何なる処置を施すべきや必ず故障を入るるの外なかるべし。との意を述べたりしが想うに近頃沖縄県令には、県下諸島を巡視中なりと聞けば、目今欧洲諸国が東洋を覬視し、都合よき島もあらば我有となし根拠となさんと探索し歩くは少も油断のならぬ世の中故に、日本の領地たる事を示す為め該島へ国旗を掲げられたるにてもあるべく別に怪むべき事にてもあらざるべし。そもそも宮子島とは宮子、石垣、入表、与那国等の諸島を総称する者にして、先年琉球事件に際し清廷が、種々の異議を申立たる折、我宍戸公使が「もし清廷に於て我国人の内地通商を許さば該群島をもって清国に譲与すべし」との議を発せられしも清廷に於てこれを肯ぜざりし。と聞き及びたる事もありて該島は純然たる我日本の版図なることを明瞭なり。然るを何ぞや日本が我国旗を掲げやうが城郭砲台を築かうが、北京政府に於てすこしも異議を入るる理あらんや。文匯報記者がその事実をも質さず、みだりに朝鮮人や支那人等の云う事を信じてたちまち評論を下したるは片腹痛きことにこそ。
記者云う、本年八月下旬沖縄県の官吏数名が共同運輸会社の出雲丸に搭じて、那覇港を距る百里ばかりの東に位する、大東島と云る無人島に到り上陸して地理を取調べたる末、国旗と標柱とを樹てて帰りたる由、本月十三日の鹿児島新聞に載ありしが本文のマヤアカ島に我国旗を樹たりとの報は蓋しこの事を云なるべし(未完)